拍手倉庫

□クリスマスまで待って
5ページ/20ページ



クリスマスまで待って

【1‐3】



 気楽な大学生として、冬の朝寝坊を決め込んでいた猿飛明日磨は3度のモーニングコールですっかり目を覚ましてしまった。

 不作法な早朝の電話など無視して、2度寝をしてしまいたい。
 だが、なんとはなしに気になるのだ。

 何時だ、とうっかり枕元に放り出したままの携帯電話を手にしてしまう。

 ディスプレイには電話着信2件とメール受信が1件。
 履歴を見れば、公衆電話からと留守番電話センターから。
 時刻は、8時半になろうかというところ。

 しかし、この時間帯に電話をしてきて、メッセージまで残す知り合いに心当たりが無かった。
 まずはメールから確認、とフォルダを開く。

 発信者名は、内扇帯人。
 いい奴なのだが、何かと共通の知り合いが起こす厄介事を丸投げしてくる後輩だ。

 今回もその関連らしく、件名が『EMERGENCY』───緊急事態と穏やかじゃない。
 
 嫌な予感に苛まれながらも、明日磨は困窮する後輩を放置なんて出来る性分ではない。
 第一、アレが引き起こす事柄に介入せずにいたら、後から多大な迷惑を被るのは経験上明らかだ。
 嫌々ながら、平穏な年末年始のためと自身へ言い聞かせ、本文に目を通す。

『カカシが
 イルカちゃんに
 目つけましたっ
 ( ̄□ ̄;)!!』

「なんだとっ!?」

 途端、一気に覚醒し、飛び起きる。

 紛うことなく、緊急事態だ。
 手近な服を適当に着込みながら、留守番電話センターへアクセスする。

 電話があったのは、帯人のメールより数分早かった。
 公衆電話独特の雑音混じりに、耳慣れた少年の焦りを含んだ声がスピーカー越しに流れる。

『おはよう、アス兄。朝早くに、ごめん。なんか変な人に会って……学校で、なんだけど。見たことないけど、高等部で、なんか白髪で、ボクのこと知ってるみたいで……』

 そこまで一気に告げたイルカは、少しの沈黙の後に続ける。

『あ〜、何かされたってわけじゃないんだ。多分、平気。朝早くに、変なことでごめん』

 伝言は以上です。
 と言いかけるアナウンスを待たずに明日磨は電話を切った。
 
 イルカからのメッセージを消去する必要はない。
 むしろ、保存する必要があった。
 協力を頼む際に聞かせるにも、アイツを追い込むにも使える。

 軽く姿見で格好を確認すると携帯と財布をポケットにねじ込み、目覚めの一服に火を着けた。

「全く、面倒臭ぇことばっかだ……」

 ここ数日の予定を書き込んだカレンダーを睨み、溜め息8割の紫煙を吐き出す。
 頭の中で、最も効果的な対処法を模索しつつ。


 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2009/12/09
UP DATE:2009/12/09(mobile)
 
 
クリスマスまで待って

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ