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□消失点 〜 Vanishing Point 〜
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最初の選択
 
@ イルカ



 普段は穏やかな木ノ葉隠れの里の空気がざわつきだすのを感じたはたけカカシはのんびり進めていた歩みを止め、手にしていたいかがわしい本からも視線を上げて周囲を伺い見た。
 少し先を行く部下たちも気づいたらしく、里の大通りを見下ろす場所に揃って身を乗り出している。

「そっか……」

 何故かを察したカカシは呆れと後悔が入り混じった溜め息を吐き出した。

 いつもと変わらない日常を謳歌していた里の人々が、《ソレ》の訪れを知ると慌ただしく通りから姿を消し、息を潜めて行き過ぎるのを待っている。
 時折、漏れ聞こえるのは呪詛と罵倒の言葉、それと蔑み怖れる《ソレ》を指し示す名。

「化け物が」

「まだ生きているのか」

「《人柱力》め」

 12年前、木ノ葉隠れの里を突如襲った災厄──就任したばかりの若き4代目火影が自らの命と引き換えに封印した尾獣──九尾をその身に宿した者の呼称。
 それが、《人柱力》。

 まだ幼い部下たちが不安げに見つめる先、彼らと変わらぬ年の子供が9人もの暗部に囲まれ、鎖に繋がれた手足でヨロヨロと人気の絶えた大通りを進んでいく。

 暗部同様、野戦用の外套と獣面で覆い隠しているが、同年代に比べ小柄な身体は衰弱しているようだし、酷く傷ついているのは明らかだ。
 それを複数の大人──それも里の精鋭たる暗部の2小隊が枷を嵌め、鎖に繋いで引きずり回している。

 けれど、異様だ、と言える者はいない。

 本来ならあの子供は、12年前に里を壊滅の危機に陥れた尾獣を封じる為に犠牲となった英雄として、もしくは強大な尾獣のチャクラを使役する稀有な戦力として、もっと丁重に扱われるべきだった。

 けれど、木ノ葉隠れの里の人々はそれを良しとせず、子供の素性は秘匿しておきながら、尾獣と同一視して厭い、疎んじ、嫌悪する。
 万が一、封印が解けて再び尾獣が解き放たれては──という懸念があったおかげで暴力に晒されたり、命を絶たれることだけはなかった。
 その代わり、子供が商店で買い物をしようとしても存在を徹底的に無視し、背後では悪態をついて嘲笑する。
 真実を知る大人たちに倣ってなにも知らない子供たちも仲間外れにし、やることなすことを容赦なく囃し立てた。

 それでも数ヶ月前までなら、子供は独りで生きながら忍者アカデミーへも通い、わずかながら友人と呼べる付き合いを持っていたのだ。
 アカデミーの卒業試験までは。

 同期生の中で唯1人、卒業試験に落第した子供は教師の1人に唆されて里の機密である初代火影の巻物を盗み出し、里を裏切ったその教師へと渡してしまった。
 幸い、と言って良いのか──裏切った教師は行き掛けの駄賃とばかりに子供にまつわる秘密の幾つかと侮蔑を暴露し、始末しようとして明かされた真相に衝撃を受けて暴走した子供によって叩きのめされたので機密の流失は未遂である。

 ただ子供の方は暴走によって自我を失い、暗部9人もの監視の下、封印術を施した枷と鎖で拘束しておかなければ見境なく暴れ出すようになってしまった。
 普段は地下に設けた封印の間に監禁し、生かして置く名分として、兵器のように度々戦場へ引き出されていく。

 《人柱力》と呼ばれて。

 いまやあの子供を本来の名で呼ぶのは、アカデミーで友人だった数人と、本当の真実を知る一握りの大人。

 
──なんで、こんなことに……


 その1人が、自身の無力さと罪悪感を隠し、よろめく子供の背を見つめる。
 不意に、顔を上げた《人柱力》がゆらりと首を巡らし、こちらを見返した。

 尾獣のチャクラに染まった赤い瞳が射抜いたのは──

 
【続く】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2013/12/28
UP DATE:2014/01/01(mobile)



 
消失点 〜 Vanishing Point 〜

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