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□消失点 〜 Vanishing Point 〜
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第6の選択
 
B 幼馴染み



 翌日の午後、ミズキの婚約者だという女性───ツバキを部下2人を伴って訪れたカカシが開口一番に尋ねたのは、彼の幼馴染みについてだった。
 反逆した婚約者についての尋問だと構えていただろうツバキは理解が追いつかないのか怪訝そうに見返し、部下のサスケは上忍のクセに駆け引きもできないのかと呆れ顔で睨み付け、ヒナタは心配してくれているのか不安げに見上げる。

 三者三様のリアクションに、失敗したな、と思ったところで言ってしまった言葉は今更取り消せないし、とっさの言い訳も思い浮かばない。
 なんでこんなに余裕がないのか、と自己嫌悪に陥ってみても、事態はけしてよくはならないのは分かっている。

「……火影様の命令でね。アンタの婚約者、ミズキと過去に関係があった人物を探してる」
 
 ありきたりな言葉で言い繕い、ミズキ本人とツバキ自身については先日の事件で必要な聴取を終えているから改めて聞く事はないのだとも告げた。

「時間が経っているし、些細なことだから記憶が曖昧かもしれないが、もう手掛かりがアンタしかいない」

 ミズキと共に婚約を報告したという彼の幼馴染みについて覚えていたら話せと命令しつつ、懇願する勢いでカカシは問う。

 すると彼女はツバキというその名に相応しく、無闇に触れればぽとりと首が落ちてしまうのではと思わせる儚げな仕草で記憶を探る様子を見せた。

「……あの時は、報告をしただけで、あの人や幼馴染みという子の昔の話はしなかったので……」

 ただ、同じような墓石の立ち並ぶ共同墓地の一角に連れて行かれただけだったから、その墓の位置すらうろ覚えらしい。

 だが、何かを思い出したのか、彼女はうっすらと微笑んだ。

「ずいぶん、かわいらしい名前だったから、もしかして初恋の女の子かって聞いたら、わんぱくなイタズラ小僧だったって……」

 確か、と白く細い指先が支えるようにまろい頬に触れて、ツバキは呟く。

「そう、確か……イルカ」

 うみのイルカ。

「そんな名前だったと……」
 
 これ以上は話せることはないと申し訳なさそうに、だが毅然と告げる。
 だが、聞いていた3人は激しく動揺していた。

 その人物のことなど知らない。
 名前も今初めて聞いた。

 その筈なのに、まるでとても親しい人の思いがけない突然の訃報を知らされたような衝撃を受ける。

 それは、初めてナルトと目を合わせた時に覚えた喪失感に酷似していた。

 むしろ、同じなのかもしれない。
 出逢った記憶も接触した記録もない、名前も知ったばかりの人物───うみのイルカの喪失こそがあの瞬間に覚えたものなのだとしたら。

 イルカが何者か、分からない。
 けれど、きっと彼こそがこの事件を解き明かす鍵であり、自分たちとナルトを繋いでいた絆だったのだ。

「協力、感謝する」

 気が急いてしまって素っ気なく、だが精一杯の誠意と感謝を込めてそれだけをツバキに言い、カカシは部下を促して走った。

 まだ日は高い。
 向かう先は、共同墓地。

 まず、本当にミズキの幼馴染みが《うみのイルカ》なのか、確認しなければ。
 ならばと、手っ取り早く彼の墓を探すことから始めるつもりなのだ。
 
 
write by kaeruco。
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