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□消失点 〜 Vanishing Point 〜
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第8の選択
A イルカを知ってるか 火影から渡された勅命を手に、教えられた通路を足早に抜けたカカシは里の地下に秘密裏に作られた《封印の間》へたどり着いた。
ここに囚われた者と初めて視線を交わした際に覚えた理由の分からない喪失感。
その正体を探り、部下や火影の助けを得て、ようやくここまできた。
あれからまだほんの数日しか経っていないというのに、ずいぶん長くかかった気がする。
勅命を得てから直ぐにここへ向かったのだが先に命令が回っていたようで、扉の前には見張り番とは別の暗部が1人出迎える。
見覚えのある面と気配に、知った顔だとカカシは悟る。
「お久しぶりです、先輩」
「テンゾウ、火影様から許可は得ている。ナルトに会わせてよ」
相変わらず丁寧な物言いで穏やかに応対する後輩を急かし、カカシは勅命を突きつける。
昔通り『テンゾウ』と呼んだが、既に暗部を引いた者に今の名を教えるつもりはないようで、訂正はなかった。
「分かってますよ、先輩。ただし、万が一のこともありますからボクも同席しますからね」
「ああ、構わないよ」
カカシとテンゾウが話している間に、見張り番が2人掛かりで扉に施されていた術を解いていた。
どうやら《封印の間》は1人では開けられぬ術で閉ざされているらしい。
だとしても、一度見た術をコピーする《写輪眼》を持つカカシに解術の印を見せないよう、テンゾウが間に立ちはだかって気を引いていた。
「さ、どうぞ。先輩」
扉が開かれれば、仄暗いだけの通路とは違い、暗闇に支配された空間がぽかりと口を開ける。
ここに、尾獣を封じられ、自我も乗っ取られた子供が拘束されているのだ。
決意を改め、一呼吸置いてカカシは足を踏み入れる。
後輩が続いて入室し、脱走防止の名目で扉は閉ざされて更に術でも封じられた。
通路からの灯りが遮断された漆黒の空間に目を凝らせば、遠く視線の先に何者かが蹲っている。
自由を奪い閉じ込める場とは言え、己のテリトリーへの無遠慮な侵入者を威嚇する尾獣の膨大なチャクラは煌々と燃え盛る炎のようだった。
禍々しくも荘厳なチャクラの圧力に、思わず付きそうになる膝を気力だけで支え、カカシは獣のチャクラを、まとったナルトと相対する。
「……ナルト……」
そう、カカシが呼び掛けた途端、小柄な子供の身体から九尾のチャクラが噴き出した。
咄嗟に身構えた2人を嘲笑うように、凶暴なチャクラはただ床や壁の表面を舐めて《封印の間》に満ちて行く。
広大な地下空間の高い天井にまで到達したチャクラは、薄っすらと九尾の姿を形作った。
《ふん! ワシを縛るに柱間の次は、うちはの力を借りるつもりか?》
格下の人間に煩わされる不機嫌だけでなく、心底嫌ううちはの瞳力《写輪眼》に支配された過去の怒りからか、敵意を隠すことなく忌々しげに九尾は問う。
いきなり攻撃してこなかったのは、己を封じているナルトの肉体が封印術の施された鎖で繋がれているからか、たんなる気まぐれなのかは分からない。
木ノ葉隠れ屈指の忍であり、うちは一族にのみ開眼する《写輪眼》を持つカカシと、彼に比肩する能力と特殊な事情を抱えたテンゾウ。
例え封印術に制限されていようと2人を相手取ることになんの気負いも見せないのは持てる力の差なのか、それとも獣の矜恃だろうか。
「……九尾。オレは、ナルトに会いに来た」
だから戦う気はない、と言外に告げたカカシは、強大な尾獣と自我の失われた子供へ呼びかける。
write by kaeruco。
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