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□消失点 〜 Vanishing Point 〜
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第3の選択
 
A 3代目



 その日はまだ日も高いうちに演習を切り上げ、カカシは3代目火影の執務室へと向かった。

 1日を過ごす間に、部下であり教え子である下忍2人もあの時に違和感を覚えたらしく、集中できていないと気づく。
 普段なら雑作もなくこなす演習なのに、サスケもヒナタもミスをくり返した。
 カカシ自身も彼らに要らぬ怪我をさせぬよう気を配るのが精一杯で、組み手の最中に結構強烈な打ち込みを貰っている。

 自分の気掛かりと痛みを隠して部下たちにらしくない理由を問えば、やはり今朝の邂逅が原因だった。

 雑多な書類を捌く3代目火影の執務室を訪れれば、訝りながらも招き入れられる。

「カカシか、何用じゃ?」

「どうしても、お話ししなきゃいけない事が……」

 ナルトのことで。

 そう声を潜めれば、一瞬眉をしかめたものの、溜め息混じりに紫煙を吐き出し、無言で先を促してくる。
 
「まず、確認しますけど……。オレはナルトと直接の面識はなかった、ですよね?」

 ナルトが生まれる前と、まだ赤ん坊であった頃なら護衛についたけれど、対面する事もなく暗部の仮面を被って物陰からひっそりと行っていたから面識があるとは言えない。
 里で度々見かける成長していく姿や声は見聞きしていたが、それは一方的なものでしかない。

「そうじゃな。そのハズじゃが?」

「……今日、初めてアイツと目が合って、酷い違和感に襲われました」

「違和感、じゃと?」

「火影様は、感じた事はないですか? アイツと目が合って、何か大事な物を忘れてしまった、その事に気づいたのに何を喪ったのかも分からない、喪失感みたいな感覚……」

「……いや……」

 否定を返した3代目だが、全く思い当たる節がないという様子には見えない。
 かつて覚えた感覚を思い出せずにいる。
 そんな感じだ。

「ちなみにこれは、オレだけじゃなく、サスケとヒナタも感じたようです」

「なんじゃと?」

「おかしいんですよ。オレにはナルトと接点がない。なのに、アイツをきっかけになにかを忘れてしまった気になった」
 
 カカシの言葉を肯定も否定もせず、3代目は黙って聞いている。

「アイツを乗っ取ったアレが術を掛けたとすると、オレだけとは思えない。もっと大規模な恐ろしい術が掛かっている気がしてならない」

「……まさか」

「最悪、この里の住民全てが何者かの術に落ちている可能性もあるかと」

 荒唐無稽な考えかもしれない。
 それはカカシも承知している。
 だが、常に最悪を想定していなければ生き残れないのが忍びの世界だ。

「術者の意図も、術の規模も、なにより本当にそんな術があるのかも不明ですけど、大掛かりな幻術か暗示がこの里に掛かっているとオレは考えます」

 カカシの考えは一笑にふして終わりにされてもおかしくないほど、突飛なものだが里長は真摯に考え裁可を下す。

「……うむ。ワシのほうでも調べてみよう。お主は部下と共に独自に探れ。報告は逐一入れよ、怠るな」

「承知。ついては2つ、お願いが」

「言うてみい」

「ナルトと、アイツの暴走に関わった教師。2人に会う許可を」

 調査を請け負ったからには、カカシの申し出は妥当なものだ。
 しかし、3代目は長い黙考の末、一方だけを了承した。
 
「……ナルトは、すぐには無理じゃ。ミズキならば明日にも手配しよう」

「そうですか。では、明日」

 それだけを告げ、カカシは火影の執務室を辞した。

「明日、ね……」

 まずは裏切ったアカデミー教師との面談。
 だが、そこに部下たちを 連れて行くべきか否か。
 カカシは迷った。

 
【続く】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2014/02/28
UP DATE:2014/03/01(mobile)

 

 
消失点 〜 Vanishing Point 〜

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