I'll die before I'll run
□キツネ狩りの歌
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キツネ狩りの歌〜 You are my secret 〜
──きつねがりに ゆくなら
きをつけて おゆきよ
ねえ きつねがりは すてきさ
ただ……
それは、ヒナタがまだアカデミーに入ったばかりの頃。
大人たちの間に、ある歌が流行っていた。
誰も鼻歌を口ずさむ程度で、おおっぴらに歌詞を歌うことはしなかったけれど。
だから子供たちは、それがなんの歌だか知らない。
ある日、ヒナタ1人が気付いた。
その歌が、1人の子供に向けて歌われていることに。
意味する所は──当時は、分からなかった。
ただその子のことは、よく知っている。
家族も友達もいない、忍者アカデミー1のオチコボレ。
でも、誰よりも努力家で決して諦めることはしない。
金の髪を風に揺らし、空色の瞳で真っ直ぐに前を見ている彼。
まだ幼い自分たちに言えたものではないのかもしれなかったが──その子の生き様は、ヒナタにとっては憧れだった。
その子のように生きてみたいと思っていた。
あまりにも自分と違う、けれどどこか似ている気がしたから。
ヒナタにはちゃんと家族がいる。両親と妹と、多くの一族。
日向という里屈指の名家。
《白眼》と呼ばれる血継限界と、忍の才を受け継ぐ一族。
その跡取として生まれた。
傍目には何もかもがあるようでいて、全ては一族の物。
きっと、将来はヒナタ自身の気持ちすらも。
あの子には見たとおりに何もない。
ヒナタには全てがあるようで、何もない。
似ているのは、強烈な劣等感と飢餓感。
そして、何かを求めようとしている心。
好意は、同族意識かもしれない。
でも憧れたのは、自分にはない強さだ。
だから、見ていた。
そして気付いた。
里の大人たちが彼に向ける、異常なまでの憎悪と嫌悪。
あの子へ冷たい目を向ける人々が、あの歌を口ずさんでいた。
何かの合図のように。
******
つい数日前までの汗ばむような日よりが、いつの間にか朝夕に肌寒さを覚えるようになった時期だ。
うっかり時を過ごしたアカデミーからの帰り道。
空はまだ明るさを残していたが、里はすっかり暗く陰っていた。
街角には街灯が点り始めている。
けれど、その灯りは弱々しく、路地のそこここに何者かが潜む闇がわだかまっていた。
ヒナタは遅くまでアカデミーに残っていたことを後悔しながら、足を速める。
今日もあの子は授業でも失敗を繰り返した。
それでたった1人、先生から呆れたように居残りを言い渡されている。
さっきまで校庭の隅で手裏剣術のおさらいをやらされていたのをヒナタは隠れて見ていた。
資料室から、演習場から、屋上から。
大声でわめきながら投げる手裏剣は、いっそわざとではないかと思うほどに、的をそれていく。
それを、居残りを言い渡した先生が熱心に指導していた。
あの先生だけは、何故かあの子を普通に扱う。
悪戯をすれば叱るし、失敗をすれば励ます。
不思議な光景だった。
先生は厳しいけれど、決してあの子を嫌ってはいない。
それどころか、まるで仲のよい兄弟か親子のように見える。
write by kaeruco。
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