I'll die before I'll run

□そして彼女は両目を閉じる
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そして彼女は
 両を閉じる

〜 a little girl of sleep 〜



 木ノ葉隠れの里は春を迎え、桜の花が満開となっている。

 あれから、1年と半分が過ぎた。

 サスケとナルトが去った後、サクラは5代目火影綱手の下、日々修行に励んでいる。

 今、ここに居ない2人の為に。

 自らの心に折り合いをつけられず、力を求めて里を去ったサスケ。

 サスケに届かなかった己を自来也との旅で鍛えているナルト。

 2人を思えば、辛いことはない。

 むしろ彼らを追って成長してゆく自身に高揚感すら覚えた。

 ただこの頃、修行が終わっての帰り道に足が止まる。

 疲れていた。

 心が。

 酷く。

 サクラの耳には、聞きたくもない言葉が入ってくる。

 自分自身の事ならば、幾ら何を言われても耐えられるし弁解だってできる。

 けれど、サスケの里抜けは事実で、ナルトの事は何も知らない。
 
 サクラは1人になって初めて、サスケとナルトがこの里でどんな思いをしていたのか分かった。
 いや、自分も彼らにこんな思いをさせたのかと気付いた。

 今なら、初めてチームを組んだあの日にサスケが言った『孤独』も少し分かる。
 大人たちに倣うまま、ナルトを侮蔑した自分の言葉が恥ずかしい。

 あの頃の彼らには及ばないまでも、今、サクラは孤独だ。
 暖かい家族が居て、気の置けない友人が居て、素晴らしい師が居ても、埋まらない。

 2人が去った後、同じ班で唯一残ったサクラへの風当たりは強い。

 綱手の弟子となったやっかみもあるだろう。
 心無い言葉を投げかける者が存外、多かった。

 そんな時、ふとサクラの心が冷える。

───こんな里……

 サクラはかつて、里を棄てる覚悟をした。

 サスケと共に。

 今も里に居るのは、サスケに置き去りにされたからで、彼らと並び立てるようになる為だ。

 だから、こんな里……。


「サクラ、どうした?」

 かけられた言葉に振り返ると、任務帰りらしい懐かしい人が立っている。

「……イルカ、先生」

「どうした、サクラ?」
 
 積もってるぞ、と肩や頭から花びらを払い落としてくれる手の暖かさは、アカデミーの頃と変わらない。
 任務後の鉄錆びた臭いをまとっていても。

 この人は強い。

 そう思えるようになったのは、最近。

 里でたった1人、ナルトとまともに向き合った大人だ。
 今でも影で、耳を塞ぎたくなる言葉を浴びせられている。

 こんな里で1人、この人は何を支えにしていたのだろう。

「修行、大変なのか?」

「……いいえ」

「じゃあ、何かあったか?」

 こんな積もるまで、こんなところに、女の子が1人で立ちすくむようなことが。
 なんて言いたげな、気遣う懐かしい声に心が落ち着く。

「考えてたんです」

 先生のこと、と呟くサクラに、イルカは訝しげに問い返す。

「先生って、カカシさんのことか?」

「ううん。イルカ先生のこと」

 どうして。

「どうして先生は、ナルトを普通に扱えたんだろうって……」

「サクラ」

「ナルトのこと、言ってはいけないって知ってます」

 でも。

「……私……私、もう、分からなくてっ……」

 サクラは悔しげに服の裾を握りしめ、涙ををこらえて俯く。

「……イルカ先生は、」
 
 
write by kaeruco。
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