I'll die before I'll run

□大人になれない夢を見た
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大人になれないを見た
〜 I don't love you 〜



「……らしく、ないですねえ」

 自分から声を掛けておいて、事にも及んでおきながら、カカシは妙なことを言う。

「何が、ですか?」

 妙な、というか今更。

 はたけカカシと、うみのイルカ。
 2人の関わりはもっと淡々としたものだった、はずだ。

 仕事上の顔見知り───だけで済ますにはちょっと交流を持ちすぎているかもしれない。
 けれど、その程度。

 現状は、過去の経緯からは有り得ない展開だ。

 深夜の連れ込み宿で、裸でもつれ合っているなんて。
 当惑気味のカカシの声音も当然だろう。

「だって、イルカ先生」

「先生は、やめてくださいよ」

 カカシ先生。

 昼間の声でわざと彼の部下たちと同じ呼び方をしてやると、すっきりとした柳眉に縦皺が寄る。
 それはカカシという男に別の魅力を生み出すだけで、決して彼の容姿を損なうことはなかった。

「だって、アナタ、こーゆーことしそうにないじゃないですか」

 カカシはイルカを深窓の令嬢か、聖人君子とでも思っていたのか。
 もしくは、相当の朴念仁と見誤っていたのか。

 言われたイルカはあからさまな侮蔑の表情を見せる。
 普段の彼には有り得ない顔だというのに、顰めた精悍な眉は驚くほど似合う。

「だったら、なぜオレなんか?」

 カカシが、声を掛けなければ良かったのに。
 手を取って、こんな場所に連れ込む必要もなかった。
 押し倒して、互いの衣服をむしり取ることも、突っ込んで、揺さぶって、欲を吐き出しあうことだって。

 なにもかも終えてからそんな事を言い出すなんて、間が抜けている。

「だって、似合わないデショ」

「そう言われましても」

 寝返り、カカシに背を向けた途端、イルカは悟った。

 まだ、行為が続いている。

「カカシさんこそ」

 これは、サービス残業だ。

 そう気合いを入れ、顔だけで振り返り、薄く笑って誘いをかける。

「オレなんかに、声掛けるなんて」

「軽率でしたネ」
 
 お互いに。

 誘いに乗る必要はなかった。
 不意に掴まれた手を振り払わなかったのも、押しつけられた身体を拒まなかったのも、イルカ自身だ。

「オレなんかじゃなく、もっとお似合いの方が幾らでもいたでしょうに」

「いえ、そうじゃなくて……」

 こんな形じゃなく、と濁すカカシの真意をイルカは敢えて無視した。

「じゃあ、オレに聞いて貰いたい事でもありましたか?」

「……かもしれません」

「どうせオレ、今夜の事は何も覚えてません」

 だから何を口走っても平気だ。
 言外に伝え、裸の背に腕を回す。

 ただ、大事な事は今告げてくれるな、と願う。
 だって今夜の出来事は何一つ記憶に残らない。

「夢を見るんです」

 静かな声が耳元に落ちて、消えていく。
 全てがなかったことになる。

 イルカには。

「……ガキの頃の、夢です。戦場で、死にかけてる……」

 本当に、夢だろうか。

「今のオレは、死に際のオレが見た、夢だったっていう……」

 幼い頃から才能に恵まれたカカシは、戦場で育った。
 死にかけたことも、あるのだろう。
 年端もいかない少年時代に。
 
 
write by kaeruco。
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