I'll die before I'll run

□ナニかがミチをやってクる
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ナニかがミ
 やってクる

〜 Something wicked this way come 〜
 


 少女にとって、男はかつての恩師の1人に過ぎなかった。

 関係はあの夜、満開の桜の下で変わった。

 今は、たった2人きりの同志。

 少女はサスケを取り戻したい。
 男はナルトの夢を叶えてやりたい。
 些細だけれど、酷く困難な未来の為に、2人は手を取り合った。

 互いに名を与え、それぞれの望みに手を貸すことを誓い合った。

 男は彼女を『エイカ』と呼ぶ。

 エイカは『英果』と書き、英断──優れた決断を意味する。
 けれど、結実しない花の果実を示す字であり、まるで叶わぬ願いを暗示しているようだ。

 だからこそ、少女はこの名を気に入った。
 自身の行く道の困難さを、彼が示してくれたようで嬉しかったのだ。

 少女は彼を『チイロ』と呼ぶ。
 
 チイロは『千尋』と書き、海の底知れぬ深さや空の果てしなき高さを指す言葉だ。
 男が抱く妄執にも似た深すぎる愛情と、だいそれた望みの高さを顕している。

 もちろん男はこの名を愛した。
 ありふれた言葉でありながら、古の読み方で示した彼女の博識を。

 彼らは2人きりだ。
 生まれ育った里にも、大恩ある火影にも、背を向けた。

「ねえ、チイロ」

 今夜も修行にくたびれた身体を木の幹に預け、梢の星を見上げながらエイカは言葉を紡ぐ。

 あの夜以来、この丘の桜の木の下で2人だけが望む未来を語るのが習慣になっている。
 花が散り、萌え出た青葉が茂る今夜も。

「強くなるって、どういうことなのかなぁ」

 志を同じくする2人だけれど、未だにエイカは何も具体的なことはしていない。
 させて貰えない。
 チイロだけが、中忍とアカデミー教師という立場を利用しながら、何かをし始めている。

 エイカには、修行があるだけだ。
 5代目火影、綱手の下で強くなること。
 それだけが、今のエイカにできることだ。

「どこまで強くなれば、いいかなぁ」

「エイカ」
 
 彼女と反対側の幹に背を預け、梢に瞬く星を見上げながらチイロはぽつりと呟く。

「自分の能力を正しく理解し、自在に制御できる者を、強いと言うんだ」

 普段のチイロは──イルカ先生ならば、こんな言い方はしない。

 少なくともアカデミーではそうだった。
 生徒にヒントは出しても、けして解答だけを与えない。
 その子が納得し、自分自身の答えにたどり着くまで付き合った。

 けれど、もうエイカは彼の教え子ではなく、チイロは彼女の教師でもない。

「エイカ」

 だから彼は彼女に、応えたのだ。

「お前にはまだ伸び代がある。今よりずっと強くなれるうちは、修行を続けたほうがいい」

 そして、これは決意。

「オレたちにはこれで良いというところはない。できる限り、強くあるしかない」

「うん」

 2人の願いはささやかなはずなのに、だいそれている。

 三忍と呼ばれ、不死の術という夢に取り憑かれた大蛇丸。
 ナルトに封じられた九尾を狙う暁。
 サスケが復讐を誓う、うちは一族を滅ぼしたうちはイタチ。
 そして、彼らの望みを受け入れないだろう木ノ葉隠れの里。
 
 
write by kaeruco。
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