I'll die before I'll run

□僕の生きる道
1ページ/2ページ



僕のきる道
〜 You'll never walk alone 〜
 


 名を与えられた。

 サヤク──鎖鑰。
 錠前と鍵という字議で、戸締まりを指す。
 転じて、出入りの要所や大切な場所という意味もある。

 その大切な場所を捨てようとした者には、嫌み過ぎて逆に相応しい。

 名を与えられたということは、役目を負わされたということだ。
 けれど今はまだ、何もできない。
 自ら起こした騒動で負った怪我は完治していなかった。
 多少の身動きができるだけでは下忍向けDランク任務すらこなせない。

「傷を治しながら、修行しよう」

 そう言ったのは5代目火影の他では唯一、自身の存在を知る男だ。

 背が高く、肩より長い黒髪をうなじで一纏めに結った男。
 その表情を隠す白い仮面に動物の顔はない。
 ただ丸い目が2つ穿たれているだけだ。
 
 彼は3代目子飼いの実力者で、員数外の暗部──という立場だと聞いている。
 今は暗部としては未熟な少年の教育係であり、行く行くは5代目の下で相棒として共に闇を駆ける──予定だ。

 その為には1日も早く彼に並び立てる実力を身につけなければならないが。

 元々、下忍にしては飛び抜けた戦闘力を有している。
 だが、経験と判断力はそれに及ばない。
 この男は、それを補う為にはいるのだ。

「なあ、アンタをなんて呼べばいい?」

 自身の教官であり、監視役であろう男に問う。
 すると彼は、薄く笑いながら答える。

「しばらくは2人きりだ。好きに呼べ」

 むっときたが、敢えて言い返した。

「アンタが名乗るのは、修行が終わる時……ってことか」

「流石に賢いな」

 一々、物言いが神経を逆撫でする。
 完全に子供扱いだ。

 この男にしてみれば、ガキでしかないのは明らかだが。

「早速始めようか」

 そう告げた男が取り出したのは、暗部の装備一式。

 だが見知った、目の前に立つ男が身に着けている物と、色が違う。
 面と防具が、黒い。

「これがお前の装備だ。通常装備と違う理由は、判るな?」
 
 言いながら男は、まだ片腕の動きが覚束ない少年の武装を手伝う。

 最低限の防具。
 鉤爪のついた手甲。
 忌まわしい姿を覆い隠す外套。
 面と、両腕を拘束する鎖。
 全てが黒かった。

 裏切り者に相応しく。

「この鎖は里に背き、舞い戻った証し。お前は、背忍と呼ばれる」

 肩幅程度の余裕はあるが、それ以上に腕を広げられない。
 印を組むには差し支えない。
 だが、格闘や投擲は慣れるまで苦労しそうだ。

 自身の腕にも鎖で繋がれた枷を填めると、男は提案する。

「お前には呪印がある。まずは体術を見せて貰おうか」

 互いに適度な距離を置き、型通りの礼をして、構えた。
 慣れない鎖の束縛に、動きがぎこちない。

「気をつけろよ」

 笑いを含んだ忠告に、むかつきが増す。

「オレはカカシさん程、優しくない」

 例え手負いの格下を相手にした模擬戦闘であっても、手加減はしない。

 その宣言に初めて男に好感を抱き、少年は一気に間合いを詰める。

「望むところだ」

 足元への打撃から、相手の出方に合わせて次の手を展開させる。
 つもりだった。

「甘い」
 
 
write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ