I'll die before I'll run

□行き場を失くした子供たち
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行き場を
くした
子どもたち

〜 Out in the Cold 〜



「ね、1人?」



 声は頭の上から、雨の隙間を縫うように落ちてきた。

 1日、路上の片隅に居れば何度か大人たちが声をかけてくる。

 純粋な親切心からの人もいるが、そうでない者ばかりだ。

 だいたいは無体を働かれ、妙な店に売り飛ばされる。

 運良く逃げ出せても、また道に立つしかないのが現実。

 それでも、多くの子供が1時的に与えられる手に縋った。

 たとえ1食でも、食べられる。
 1晩だけでも、温かな寝床がある。

 そんな些細な、けれど切実な望みのために。

「ね、1人?」

 今まで、誰について行ったことはない。

 どんなに空腹でも、寒くても、淋しくても。

 だって、ひと時の慰めなど欲しくはない。

 ただ、失くした居場所しか望んでいない。

 誰にも贖えない。
 
 だから、誰にも縋ったりしない。

 待っているのは救いの手ではなく、最期の時。

「ね、1人?」

 繰り返しかけられた声に、緩慢にうなずく。

 そして初めて、その人を見上げた。

 ずいぶん背が高いように思うが、歳は自分とさほと変わらないように見える。

 身体つきはやけにほっそりとしていて、差し出された手の指は女性のように細くて白い。

 けれど、使い込まれて傷つき、よく馴染んだ手甲をしていた。

 中忍以上に支給されるベストは着ていないが、左目を庇うように斜めに額当てを締めている。

 左目を隠し、口元を覆っているから顔つきはわからない。

 ただ街灯に透ける銀の髪が、何かを思い出させる。

「おいで」

 思考は躊躇したものの、優しい声に促されるまま差し出された手に自分の手を重ねていた。

 柔らかく握り返された感触は冷たく、どこか曖昧だ。
 前を行くたわんだ背とふらふらした足取りが、酷く頼りなく見える。

 それでも、この人は木ノ葉隠れの忍だ。
 そうと分かって生じる気持ちが安堵ではない。

 自分はまだ忍者ではなく、この男は若いがきっと歴戦の忍だ。
 対等な仲間ではないが、男は自分を庇護するほど年かさでもない。

 この関係を、なんと言ったら良いのか。

 考えながら歩くうち、男の足が止まった。

 連れてこられたのは、通りの外れに立つ小さな宿。

 男が暖簾をくぐったところで、出迎えがあるわけでもない。
 気にもかけず、上がり込んだ男の背をぼんやりと見つめた。

 不意に、ものすごく近さからのぞき込まれていると気づく。

「だいじょーぶ」

 ぽん、と頭を撫でられた。

 安心させる為でも騙す為でもなく、ただ発しただけの言葉としただけの行動。
 感じないほど酷い空腹と疲労。
 色々なものが思考を遮り、どんどんぼうっとしていく。

 なのに、男も疲れているのは感じた。

 惰性で話し、動く。
 2人ともぼんやりと奥へ歩き、一番奥の部屋へ入った。

「お腹空いてる?」

 膝の上に座らされ、白湯を注いだ湯呑みを差し出される。
 受け取って口に含み、飲み込んだ。

 途端に麻痺していた感覚が蘇って、欲するまま白湯を流し込む。
 だが、長く水も口にしていなかった胃は、体温程の白湯すら受け付けなかった。
 
 
write by kaeruco。
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