宝物

□ちゃきっ様
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 嗄れた、声。明らかに顔の大半を爛れさせた男が、抗う子供の身を抱え込んでクナイを向けた。呼応して残った者達が男を護る形で構えを取る。
皆が皆…毒にやられたらしくふらついていたり、手足が明らかに異常な方向に曲がっていたりしていて。…五体満足な者は既に居ないらしい。

「俺達はもう、里には帰れん。…だが」
 コイツだけでも連れて逝かせて貰う!!

 決意を篭めた叫び。されど研ぎ澄まされたクナイが、その躰に突き立てられんとした…その時

「…!?」
 子供の身体が消え。入れ替わるように影が、走った。と同時に対峙していた銀の男の姿もまた、揺らぎ…
代わりに現れた新たな影は、素早く印を組むとすっかり荒れ果てた地へと掌を当てた。

「土遁!」
 気合と共に放たれたチャクラに漣のように大地が揺れ、土中映魚の術を破られた残党が次々と姿を現す。それを銀の影は流れる様に鮮やかな動きで狩って行った。
逃れようとする者も、抵抗しようとする者も。皆が、一瞬で葬り去られ…

風に押された雲が、月を覆い…過ぎ去る迄のほんの僅かの間に。
 今度こそ『全て』が終わったのであった。

 
 
* * * * *



「に、しても。何で俺が『カカシ先生』にならなきゃなんなかったんですか?」
 確かに相手の油断は誘えますけど、チャクラの消耗を考えるならカカシ先生はそのままで、俺がナルトになった方が良かったと思いますが

 里に向かいながら、傍らを駆ける人に疑問をぶつけて見る。
そう、この任務。態々『カカシ先生』がナルトに変化し、俺が『カカシ先生』へと変化して当たっていたのだ。お陰で、素早く確実に無駄の無い動きで敵を倒す『ナルト』と言う、世にも珍しいモノを見る事になったのだが…まぁそれは良しとしよう。俺の神経には結構堪える光景ではあったけれど。
 其れよりちゃんとした『理由』が知りたい。任務に当たる前にも同じ意見を述べたのだが、何だかんだで誤魔化されてしまったのである。無事終わったのだから今更だとは思うのだが、このまま有耶無耶に済ますのは此方の気分が宜しくない。
 強い視線で、絶対に誤魔化されない!と示せば。
沈黙の後漸く諦めたのか、カカシ先生が小さな溜息を付いた。前を向いたままぼそぼそと語り始める。
 
「…笑いませんか。」
「?笑う様な事なんですか。」
 俺が怪訝そうに訊ね返すと、今度は

「…じゃあ、怒りません?」
 と再び訊ねて来る。

「俺が笑ったり怒ったりする様な理由なんですか?」
 カカシ先生の言葉に、俺の疑問は益々膨らんで行く。カカシ先生の横顔を凝視しつつ、じっと言葉の続きを待っていると。
視線に耐えかねたのか…カカシ先生がぼそっと呟いた。

「…構って欲しかったんです。」
「へ?」
「だから!『カガリ』の時みたいに先生に、構って欲しかったんですっっ」
「……」
 絶句。
 つまり『子供』に変化して、『師』になった俺に構われたかったって言うのか?そんな理由で任務中態々…
とんでもない『理由』に、思わずマジマジとカカシ先生を見詰める。すると絶対に此方を見ないようにしているらしいカカシ先生の、覆面と額宛の狭間で僅かに晒された肌が。夜目にも判る程赤くなっているのに気付いた。

「…カカシ先生、可愛いんですね!」
 俺が突然湧き起こって来た笑いを噛み凝らしながらそう言うと、余計に顔の赤みを増したカカシ先生が自棄糞の様に走る速度を上げる。

「待って下さいよ、カカシ先生!」
 慌てて付いて行きながら、必死で笑いを収めて。どうにか再び横に並ぶと

「…今度、飲みせんか?カガリみたいに、はちょっと難しいですけど。」
 友人としてならたっぷり構って上げますよ

 そう、小声で告げた。

「…!!…」
 刹那。
はっきりと判る程に身体を強張らせたカカシ先生から殺気とも威圧とも付かない強烈な気がぷわっと放たれ…
次にはその姿が、急に掻き消えた。…瞬身の術である。



「クック…あははははッ!」
 もう、堪える事も出来ず、走りながらも笑ってしまう。
残念ながらこの任務が終わったら、カカシ先生は今後こそ本当に『荷物を届けに』子供達とあの街まで行かねばならない筈だ。その間に家の掃除をして、良い酒と肴をたっぷり用意しておこう。
…部屋の中でならどれだけ構い倒しても、他人に見咎められる事は無いのだし。どうせなら泊まっていって貰うのも良いかもしれない。幸い、カガリ用に購入したコップや歯ブラシセットだってまだちゃんと取ってある。
 だってカカシ先生は、消える前にちゃんと俺に返事を残して行ったのだ。

 宜しくお願いします、と。



 楽しい想像に胸弾ませながら、俺はカカシ先生に追い着くべく…足へと力を篭めた。


 終
ちゃきっ@天手古舞

 


 

(最終更新:2014/12/14)

 
ちゃきっ様

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