Happily Ever After

□Happily Ever After
5ページ/12ページ

UP DATE:2017/02/01 write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

 1年前はまだその行方どころか存在すら判然としていなかった女神が聖域へ帰還し、海皇や冥王との聖戦に勝利したのは───そして更なる女神と若き青銅聖闘士たちの活躍の末に神々との交渉によって死した聖闘士たちが生命を取り戻したのは、ひと月も前の話ではない。
半年程前に聖域で反逆者として死を迎えたサガとアフロディーテ、シュラとデスマスク、そして海皇を欺き海闘士として女神と敵対した後に冥王との聖戦では双子座の黄金聖闘士として戦い散ったカノンは、何故か女神アテナが城戸沙織として暮らす、日本の城戸邸に蘇った。

 聖闘士としての能力を剥奪された状態で、再び聖域へ足を踏み入れることも赦されず。

 それが復活の条件だったのだ。
いや、聖闘士として死んだが故に、改めて人としての生を女神から与えられたと言うべきか。

 それならば何も知らぬ赤子として新たな生を与えてくれれば、とサガやシュラには思えた。
しかし彼らの胸の内もお見通しの女神は柔らかくだが決然と「それが、あなた方への罰なのですよ」と告げる。
戦士としての能力を剥奪され、かつて害した人々へ謝罪する事もできないまま、己の為した罪を忘れずに何の力も持たぬ人として生きてゆけ、と。

 こうして、彼らは罪人として女神の治める聖域から追放されたのだ。

 しかしそれは表向きの話で、聖闘士でなくなった彼らは未だに女神から庇護されている。

 なにしろ幼少時から聖域や海底神殿という俗世間から隔絶された場所で人に知られず生きて来た彼らには戸籍も学歴もなく、それなりの知識や技術はあっても就学や就職の手段も生活の拠点すらなかった。
故に女神アテナはグラード財団で彼らの身分を保証して新たに戸籍を作り、それぞれ今後生活していくのに必要な知識や資格を取得するまでという有って無いような期限付きで、聖域の反逆者たちに城戸邸で衣食住を提供している。

 その事を申し訳なく感じて辞退を申し出るサガに、女神ではなく城戸沙織の顔で少女は憤りを見せた。

「まだ学生として通じる年齢でもあるのに、社会で生きて行く術を何も持たないあなた方を放り出す程、私は薄情でも無責任でもないつもりです」

 20代前半のシュラたちはともかく、三十路に手がかかる双子はいくらなんでもそれは、と反論しかけたけれど城戸邸の若き女主人にしてグラード財団の総帥たる少女は華やかに微笑んでみせる。

「それにあなた方はとても有能です。そんな人材を放置しておくなんて、もったいないじゃありませんか」

 正体を偽っていたとは言え、聖域と海界をわずか15歳で掌握しただけでなく、13年もの間破綻なく運営し続けたサガとカノンの施政者としての手腕は間違いなく本物だった。
サガを補佐してきたシュラやデスマスク、アフロディーテたちも10歳になるかならないかという年齢から様々な働きをしていたという。

 さすがに言葉や資格の習得や習慣の違いに慣れるのに時間はかかるだろうからすぐに日本で働けるとは思ってはいないものの、グラード財団総帥の目には即戦力として映っているのだろう。

「どうしても無償が心苦しいなら、月々の諸費用は記録しておきますので、収入を得られるようになった時に返済してください」

 そう締めくくった少女は、5人の大人たちを新たな扶養家族として受け入れてしまったのだ。

 それは同じく女神の庇護の元で城戸邸に暮らす10人の青銅聖闘士たちも同様で、元黄金聖闘士たちが日本での生活に早く馴染めるよう縁のある者が色々と気を配ってくれている。

 聖闘士ではなくなった事をあっさりと受け入れ、新しい生活に乗り気のデスマスクとアフロディーテは積極的に彼らと関わり、最近では買物や遊びに連れ立って行く程度に親しくなっていた。

 当初は直接対決した紫龍や瞬、そして警戒心むき出しの邪武などは距離を置いていたのだが、妙に人懐っこい大人達と今では普通に会話している。
まあ、真っ先に園丁として城戸邸での仕事を始めたアフロディーテが地味な力仕事を黙々とこなしている姿に絆され、続いて気まぐれに腕を振るうようになったデスマスクの料理が食べ盛りの少年たちの胃袋を鷲掴みにした、とも言えるのだが。

 逆に、この状況を中々受け入れられず、悩みまくったのがシュラとサガの2人だ。

 それぞれの趣味や特技を生かして新しい生活にとけ込んでいけた2人とは違い、シュラにはこれというやりたい事もできそうな事も思い至らず、途方に暮れているようだった。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ