Happily Ever After

□Saint School Life
6ページ/46ページ

UP DATE:2020/08/20 write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

 Saint School Life
【Happily Ever After番外編】
01:初登校


 些か複雑な家庭の事情により、城戸家の10人兄弟は帰国子女として5月の末という中途半端な時期に中高一貫教育の学校法人グラード学園へと編入することとなった。
とある界隈においては定番───いや、王道と言われる時期の、年齢も容姿も性格もバラバラで個性豊かな兄弟の一斉編入にきっと彼らの同窓生となる一部の趣味人たちの妄想は頗る捗って薄い本が厚くなるのだろう。

 それはさておき。

 実は城戸家の兄弟のうち年長者3人組の檄と一輝に蛮の他は未就学のまま世界の僻地へと送られた為、1度も学校へ通った事がなかった。
集団生活については孤児院や児童保護施設育ちの者が多いから問題はないと思いたいのだが、経験者たる年長者3人組ですら実際に登校できたのは1年足らずの期間な上に8年も前の話になる。

 この日、彼らの初登校が色々な混乱に見舞われたのはもはや必然だった。

 まず予定の起床時間を過ぎて朝食の時間になっても部屋を出てこない星矢と氷河、そして市。

 日頃からゲームやマンガに夢中になっての夜更かし癖を注意されてきた星矢は自身の準備にも忙しい中呼び出された精神的長兄たる一輝に一喝され、ようやく目を覚ました。
けれど前日に持ち物の用意をしていなかった、と騒ぎ出して瞬や邪武ら同年の兄たちに世話を焼かれながら新品の教科書を真新しい指定鞄に詰めていく。

 前夜に海外で生活する恩師と長電話をして寝不足らしき氷河は半ば寝ぼけたまま紫龍に身支度を手伝われ、独特な美意識を持つ市が「髪型が決まらないザンス」と嘆くのを那智が「あー、パーフェクトだろ」と宥めて洗面室から引っ張り出す。

 そんな騒動を経ても家長たる沙織の『朝食はできるだけ家族全員で』との言葉通りに10人の兄弟だけでなく5人の居候達まで朝食に顔を揃えたのは奇跡かもしれない。
今日この日だけ、の。

 忙しい家長の少女は直近の予定や世界情勢などを居候との話題にしつつ、用意されたしっかりめの朝食を優雅に収めてしまうとすぐに財団総帥としての仕事へと出かけていった。
勿論、居候達にもそれぞれ仕事があるし、今日から学生となる兄弟たちものんびりとはしていられない。

 なにしろ初登校の今日は諸々の手続きがあるからと始業30分前───8時までに職員室へ来るように言われたのだ。

 城戸邸からグラード学園までは(邸の玄関から門までを含めて)常人が普通に歩いて25分。
車なら5分ちょっとの距離だが、怪我や体調不良など正当な理由を事前に連絡していなければ自家用車での送迎は校則で禁止されている。
当然ながら寝坊は正当な理由にはならない。

 だが、聖闘士たる彼らが本気で走れば瞬く間である。
けれど聖衣以外の衣服は高速の摩耗に耐え切れないし、音速を越える時に発生する衝撃波で大惨事を引き起こすのは目に見えているので、日常生活において聖闘士の能力を振るうのは御法度と家族会議で取り決められた。

 よって本日、邸を出るタイムリミットは7時35分。
城戸邸の玄関ホールに登校の準備を整えた兄弟が全員揃ったのは、ギリギリの時間である。

 編入先であるグラード学園の制服は濃紺のブレザーに生成りのニットベスト、白いシャツに学年毎に挿し色の違うロイヤル・レジメンタルストライプのネクタイ、そしてブルーグレーを基調にしたピンストライプのパンツだ。
ちょうど衣替え前の間服期間で昼間は梅雨前のからりとした暑さになるという天気予報に全員がブレザーは羽織らずに半袖シャツを選び、半数はベストも着ていない。
紫龍と那智と蛮は半袖シャツにベストを合わせ、一輝と瞬は長袖のシャツにややサイズが大きめのサマーニットのカーディガンを羽織っている。

 そして最初の登校ということで、全員がネクタイを結んでいた。
ネクタイはブルーグレーとシルバーグレーに学年色が挿し色になったレジメンタルストライプに校章がダイヤグラムに配置されている。
挿し色は一輝ら4年生が橙色、紫龍ら3年生が青、星矢ら2年生が黄色だ。
ただ半数は悪戦苦闘の末に結局は誰かにネクタイを結び直されるのはご愛敬である。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ