Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2020/09/17 write by kaeruco。
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 Saint School Life
【Happily Ever After番外編】
02:最初の授業


 その日、グラード学園で編入生が加わると増えた机から悟った生徒たちのクラスは朝から浮ついた空気となっていた。

 2年A組もそのひとつである。
特別進学クラス───特進クラスと生徒たちが呼ぶ、各学年でハイレベルな進学先を目指す成績優秀者や学力特待生が集まっているクラスでも、他と同じく級友と宿題の確認がてら談笑または授業の予習をしながら教室に置かれた真新しい机に期待の眼差しを向けていた。

 なぜなら、話題の編入生達を今朝見かけた生徒が言うには、10人のうち1人だけとんでもない美少女がいるらしい。

───大柄な編入生達が守るように囲い込んでいたからはっきり見えなかったけど、ものすごく可愛かった。

───眼鏡っ娘で僕っ娘だってさ。

───きっとあのごっつい兄貴達からお姫様みたいに大事にされてる妹だろう。

 そんな断片的かつ妄想交じりの情報から、自分たちの教室に編入生が加わると分かっている生徒達は新しいクラスメートがあの集団の中の誰であるかという話題で盛り上がる。

「金髪で眼帯してた奴は帰国子女枠でD組だと思うんだよ」

「めっちゃガタイの良い2人はさ、オレらと同い年じゃあないよな」

「前に居たちっさいの2人は同い年っぽかったよなー」

「あの奇抜な奴と目立たないのも違ってて欲しい」

「やっぱり編入生は美少女がいい」

「だよなー」

 男子生徒の夢見がちな希望論に女子生徒の多くは眉を顰めるが、彼らの推測に部分的には同意もできた。

「後ろの方に居た人達は同い年とは思えないかなー」

「金パの人ってさ、地毛かな?」

「脱色であんな色になる?」

「なんか茶髪っぽい人多かったし、ダブルかもよ」

「ロン毛で眼鏡掛けてた人、良くない?」

「てかさー、男子ちゃんと制服見てないよねー」

「それなー」

 女子生徒の方が落ち着いているのは誰がクラスメートになろうが、自分好みの編入生への足掛かりになるだろう、という考えからだろうか。
そして男子よりも物事が見えているのに、指摘はしない。
彼女たちは男子たちがいつ気づくかを楽しんでいるのだ。

 そんな会話が交わされているうちに予鈴が鳴り、話し足りなさを抱えたまま立ち歩いていた生徒達はそれぞれの席に着く。
担任が来るまでは隣り合った席の生徒と続きを話合っているが、教室の戸が開かれた途端に口をつぐんで一斉にそちらへ視線を向けた。

 教室の戸を開けたのは、当然ながらクラス担任の越塚小春である。
まだ年若く可愛らしさが抜けきらないほんわかとした印象の女性教師で、新学期の担任発表の時は多くの男子生徒が浮き足立った程の人気がある教師なのだが、今生徒たちが気にしているのは彼女ではない。
生徒たちが醸し出す肩透かし感に気付かないのか、それとも予想通り過ぎて相手にする気も起きないのか、越塚教諭は背後にいた生徒に頷いてから彼を伴って教室へと入り、教壇を上がって出席簿を教卓へと置く。

 担任に従って教室へと入ってきた編入生は、多くの男子生徒が願っていた通りの美少女めいた顔貌をしていたけれど、前を行く女性教師よりも背が高く、彼らと同じ制服を纏っていた。
待望の編入生に悲喜交々で騒つく生徒たちを置き去りに、越塚教諭はマイペースに週番へ挨拶の号令を促す。
戸惑いが先立っていつもより声が小さく揃わない生徒たちの挨拶も気にせず、越塚教諭は話し出した。

「はい、おはようございます。本日からこのクラスに加わる編入生を紹介します。城戸瞬くん。一言、どうぞ」

「城戸、瞬です。ずっと海外に居たので、日本の学校に通うのは初めてです。慣習の違いに戸惑ったりもするかもしれませんが、仲良くしてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」

 お辞儀をすると耳の下辺りに切り揃えた茶色みの強い柔らかそうな髪がふわりと揺れ、一瞬隠した整った優しげな顔を彩りながら元の位置へと収まっていく。
にこやかな笑顔は確かに美少女と言えなくもないが、すらりとしたスタイルはクラスの中でも背の高い方だろうし、何より声も制服も紛う事なく男子の物である。

「誰だよっ!? 美少女転校生って言った奴!」

「かわいいー!」
 
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