Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2020/09/26 write by kaeruco。
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 Saint School Life
【Happily Ever After番外編】
03:最初の昼休み


 3時限目の終わりを告げる鐘が鳴ると、グラード学園の生徒たちは一斉に動き出す。
ある生徒は授業の終了と同時に購買へと駆け出し、ある生徒は仲の良いクラスメートと机を寄せ合い、ある生徒は予め購入していた食券を手に悠々と食堂へ向かう。
多くの生徒が待ち侘びた昼休みだ。

 今日初めて登校してきた城戸家の兄弟たちは一緒にどうかと誘うクラスメートに断りを入れ、2時限目の終わりに末っ子の1人からメールで呼び出された場所へと向かう。
弁当の詰まったトートバッグを下げて。

 それぞれ途中で立ち寄った購買や自動販売機で飲み物を購入して集まったのは第2校舎と食堂の間にある小さな庭園───生徒たちからは裏庭と呼ばれる場所だ。
数種類の低木の生垣に囲まれた藤棚の下にはテーブル付きのベンチが幾つか据えられていて、数人の生徒が食事や読書や昼寝をしている。
2つのテーブルに陣取った新入生兄弟を珍しげに眺める者もいるが、他人と関わりたくないと無視を決め込む生徒が殆どだ。

「学園にこんな所があったんだな」

 小さいながらもきちんと手入れされ季節の花を咲かせる裏庭を見渡す紫龍に、招集をかけた瞬がここを知った経緯を話す。

「皆でお弁当食べられる場所ないかなって聞いたら、同じクラスの藤宮さんが教えてくれたんだ。夏場は日差しが強いし冬は吹きっさらしだから、お昼休みもあんまり人いないよって」

「なんだよ、瞬。お前もう、クラスの女子と仲良くなってんのかよ?」

 持参したトートバッグから取り出した大振りのおにぎりにかぶりつきながら邪武が茶化す。
すると、那智も購買で買ってきたペットボトルのお茶を飲みつつぼやいた。

「それはそうとさ。最初に教室入った時、クラスメートにガッカリされなかったか? なんで美少女編入生じゃないんだーって叫ばれて、あれは弟だって返したら更にガッカリ感が倍増だ……」

「お前もかー」

「俺たちも言われた」

 彼らの体格なら1人分と言われて納得しかないサイズのタッパーから唐揚げやウインナーを摘んで檄と蛮も苦笑し、同じサイズのタッパーを片手に煮玉子を飲み込んだ市も加わる。

「あら、ミーも言われたザンスよ。100歩譲ってあの美少女ちゃんが男だったとしても、なんでうちのクラスに編入してくるのがコイツなんだ、とかー」

「それはちょーっとクラスメートたちの気持ちも分からないでもないけどなー」

「ちょっと星矢。どーゆー意味ザンス? だいたい、そーゆーアンタはどうだったザンスか?」

 やはり大きなタッパーを抱え込んで好きなおかずから片付けている星矢がからかえば、他の兄弟からのやめておけという視線に気づかずに市が噛みつき返す。

「んー、瞬が兄ちゃんって言ったら男共はガッカリしてたけどさー、女の子たちは「金髪の人もお兄さんなの?」とか「長髪のお兄さん、彼女いる?」とか「美少年くんは瞬くんって言うの?」ってずーっと騒がしかったぜ」

 シナを作って下手な女声で物真似しながら休み時間はずっと女子に囲まれていたのだ、と言外に告げる朗らかな末弟の笑顔に兄弟たちの半数は言いようのない敗北感を覚えた。

 何故だかこの末っ子は女受けが良く、気付くと女性に囲まれているし、特に年上のお姉さんから可愛がられる。
羨ましさに食べかけのおにぎりを掴む手に力が入って握り潰してしまいそうになるが、すぐ側にいる精神的長兄に見られでもしたら「粗末にするなら、いらんな?」と言われて作って貰えなくなりそうなので必死で堪えた。

 少し騒がしい兄弟たちの隣のテーブルでは午前中の授業について話が弾んでいる。
紫龍は編入が決まってから不得意な理系科目を心配していたのだが、実際に授業を受けてみれば思いの外楽しく、クラスメートにも良くしてもらえたらしい。

「意外と進んでいなかったんだ。少し不安だったが、なんとかついていけそうだ」

「え、そうなの? 僕のクラスすっごい進んでたけどなー。分かんないとこあったら兄さん教えてくれる?」
 
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