Happily Ever After

□Saint School Life
17ページ/46ページ

UP DATE:2020/09/30 write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

 Saint School Life
【Happily Ever After番外編】
04:そして放課後


 グラード学園では、午後の授業と掃除の後にショートホームルームを終えれば放課後となる。
下校時間までは委員会や部活動、同好会などがあり、自習の為に図書室や自習室を利用したり、教師に質問があったり呼び出されたりしていなければ、多くの生徒は帰宅していく。
今日は編入生たちの噂話が尽きないからか、教室に居残っている生徒が普段より多いようだが。

 なにしろ、たった1日で生徒たちに共有された10人の編入生たちの情報はかなりの量になる。
それぞれの学年とクラス、名前とだいたいの容姿は当然として、どこから流出したのか分からない出自まで。
中でも最も話題になっているのが、当初は美少女だと騒がれていた美少年の編入生だ。

 名前は城戸瞬。
特進クラスの2年A組に編入したことから学力は優秀、と思われる。
最初に見かけた生徒たちが美少女だと誤認する程の美少年だ。
他の兄弟達の証言から、城戸兄弟の末っ子トリオの中ではお兄さん的なポジション、らしい。
お昼休みに大きなトートバッグを持っていたから兄弟たちの分までお弁当を作ってきたのではないか、とか。
だとしたら優しくて、兄弟思いで、料理上手なのだろう、とか。
一緒に編入してきた戸籍上の義兄弟とは別に実の兄が居て、その兄をすごく慕っている、とか。

 そんな虚実の入り混じった噂の的になっている当の本人は、学年もクラスも違う数人の女生徒に取り囲まれて放課後のお誘いを申し訳なさそうに断っていた。

「ごめんなさい。今日は、授業が終わったら寄り道せず帰るよう言われてるんです。仕事に行く兄さんを見送りたいですし……」

 誘いを断るにも気遣いを見せる瞬に、少し自分に自信があるのか強気な女生徒たちは押せば行けると勘違いして食い下がる。

「えー、いいじゃん。行こうよ、瞬くん。そんなに遅くならなかったらバレないしー」

「なんだったらウチらも一緒にお兄さん見送り行くよー。あ、お兄さん紹介してよー」

「瞬くんのお兄さん、カッコいいんでしょ? 幾つなの? どんな仕事?」

 他の兄弟たちがいる事を忘れているのか、彼らより遅く帰宅したり彼女らを引き連れて兄を見送ったら寄り道が即バレすると気付いていない女生徒たちは執拗に瞬を誘う。
瞬本人に好意を抱いている、というよりは芸能人でも滅多にいないレベルの美少年を引き連れて優越感を覚えたいのだろう。
他人の注目を集めるペットかアクセサリーを選んでいる感覚なのか、自分はそれを所有するに相応しいのだと思い込んでいるからか、相手の気持ちを察して引くことはない。

 そんな女生徒たちに群がられて瞬が困っているのは分かっていても、ちょっと派手な素行で有名な先輩がいるせいでクラスメートたちは割って入っては行けない。

 しかし、偶々通りがかった何も知らない末っ子が空気も読まずに乱入してきた。

「おーい、なにやってんだよ瞬。早く行かねーと、一輝行っちまうぜ」

「あ、星矢。僕もすぐ行きたいんだけどさ……」

 同じ兄弟でもやんちゃな末っ子には興味のない女生徒が乱入者に食ってかかろうとするより早く、取り出した携帯電話のカメラで女生徒に取り囲まれた瞬を写した星矢が逃げていく。

「瞬は女の子に囲まれててこられませーんって一輝に言っとくなー!」

「ちょっ、星矢、待って! そんな写真、兄さんに送らないでよ! それに、走ったらダメだってば。あ、ジュネさんにも言ったらダメだからねーっ」

 逃げた末っ子を追いかけるべく、クラスメートにだけはまた明日と告げた瞬は教科書の詰まったカバンと昼食の弁当が入っていたトートバッグを抱えて教室を足早に出て行く。
逃げられた、追いかけなきゃ、と動きかけた女生徒たちに、それまで様子を伺っていたクラスメートたちが聞こえるように噂話を始めて追い討ちをかけた。

「そういえば瞬くん、年上で美人なガールフレンドいるって言ってたもんねー」

「あー、ジュネさんってその人かー」

「すっげぇ美人だもんな。長くてきれーな金髪でさー」

「なにそれ、うらやましい……」

「休み時間毎に携帯の写真眺めちゃうのも分かるなー」
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ