Happily Ever After

□Saint School Life
20ページ/46ページ

UP DATE:2020/10/07 write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

 Saint School Life【Happily Ever After番外編】
05:同好会勧誘合戦


 城戸家の兄弟たちの学園生活2日目は、バラバラな登校から始まった。

 あまり生徒のいない空いてる通学路を歩き、静かに教室へ入りたい瞬や紫龍、氷河たちは初日と同じ時間に昨日の帰宅後に厨房へ頼んでいた弁当を下げて邸を出る。
今日は学園ではなく財団へ向かう一輝は既に総帥や部下たちと車で邸を出ているけれど、他の6人はまだ朝食室に居たり、自室で着替えていたりとのんびりしている。
まだ余裕はあるし、時間になれば遠慮なく放り出すよう邸で仕事をしている居候たちへ伝えているから、遅刻はしない筈だ。

 3人きりであったからか、昨日は夜更かしをして半分寝ぼけていた氷河がしゃっきりと歩いたからか、思っていたより少し早い時間に学校へ着いた彼らは昇降口で別れる。
瞬は第2校舎の4階、紫龍と氷河たちは第1校舎の3階に教室があり、2つの校舎は昇降口のある中央校舎の両翼として階段室を挟んで建っているのだ。

 4階までの階段を上がった瞬がA組の教室へと足を踏み入れると、既に登校していたクラスメートから次々に挨拶の声がかかる。
特進クラスだからか、始業30分前だというのに既に半数近くの生徒が集まっているらしい。
教室の1番後ろまで歩きながら挨拶を返し、瞬は昨日も使ったロッカーに弁当の入ったトートバッグを収めてから自分の席に着いた。

 カバンから1時限目の教科書とノート、筆記用具とついでに蔵書室から適当に持ち出してきた文庫本を取り出して開く。
実の兄も憂いていたが、城戸邸で多くの兄弟と暮らすデメリットは1人の時間が確保しにくい上に環境が騒がしくて読書があまり捗らないことだ。
今日持ち出してきたのはアメリカのSF作家の短編集で、授業の合間に読むにいいと選んだのだが、翻訳が巧みで少し奇妙な世界観にもすんなり浸れる。
これは当たりだった、と上機嫌で読み進む瞬の隣に人の気配が立った。

 顔をあげれば隣席の藤宮が席に鞄を置くところで、瞬が自分に気付いたと悟るや挨拶に続けて謝ってくる。

「おはよう、瞬くん。ごめんね、邪魔しちゃった?」

「いいえ、気にしないで。おはようございます、藤宮さん」

 同じように鞄から文庫本を取り出した藤宮は、興味深げに瞬の手にしている本を覗き込む。

「瞬くん、どんなの読んでるの?」

「邸にある物を適当に。ずっと海外に居たせいで日本語を忘れてる感じがするので、リハビリですね。藤宮さんは?」

「そうなんだー。私はラノベだよー。『異世界トリップした料理男子がクソマズ異世界料理に美味しい幸せ革命を起こす』ってやつ」

「へぇ。ラノベ、ですか。どんなタイトルなんですか?」

「だからー、『異世界トリップした料理男子がクソマズ異世界料理に美味しい幸せ革命を起こす』だよー」

 藤宮がブックカバーを外して見せてくれた表紙には、カラフルで可愛らしいイラストと共にあらすじだと思った長いタイトルが配置されている。
聞けば、内容を説明する文章をそのままタイトルにするのが最近の流行らしい。

「昨日、帰りに本屋寄ったら見つけたの。主人公の男の子が、なんだか瞬くんっぽいなーって」

「僕、ですか?」

「そう。この主人公くんね、女の子みたいに可愛い顔がコンプレックスで、男らしいお兄さんに憧れてるの」

 そう言って藤宮が指し示すキャラクターは確かに可愛らしいが、切りっぱなしの短い黒髪やちょっと気の強そうな瞳などが少年らしさを表現している。
絵柄自体がすでに可愛らしいので、特別女の子と間違われる程ではないのかな、と瞬には感じられた。

 しかし、瞬の顔が母親似なのは兄が証言しているし、実の兄がとても男らしい人で瞬が憧れているのは事実である。

「あー、確かに少し、似てる、かもしれませんね」

「でしょ? それでね、主人公くんは父子家庭でー、働いてるお父さんとお兄さんに代わって小さい頃から家事してるから料理上手なんだよー」

「……それは、だいぶ違いますけど……」

 父子家庭どころか孤児院育ちだし、父親は死んで5年も経ってから正体が発覚したのだ。
それも色々と最悪な状況で。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ