Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2023/12/11
write by kaeruco。
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 Saint School Life
【Happily Ever After番外編】
06:初めてのおうちご飯




 ───これは城戸家の10人兄弟たちが学園編入に向け、家庭内学習をしていた時期の話である。
 食事は基本的に邸の料理人らによって用意される城戸家の人々。
しかし、どんなに豪華で見た目も味も良く、栄養価も考えられた美味であっても、やはり食べ慣れた好物や憧れた料理に心惹かれるのが人間というもの。
兄弟たちもまた、懐かしい味に飢え始めてきていたらしい。

 とある日の夕食後、居候の1人であり調理人の見習いとして働いているイタリア人───通称カニ(仮)は勉強室に集まって学園編入に向けての勉強をしていた育ち盛りで食べ盛りな城戸家の10人兄弟たちへ「明日の昼飯にリクエストはあるか?」と訊ねた。
するとそれぞれ勝手なメニューを声高に要求しだす。

「カツ丼!」

「オレは牛丼だなぁ」

「絶対に天丼ザンスよ!」

「ナポリタン!」

「ハンバーグ!」

「一度に言うんじゃねえ! あー、カツドンとかギュードンとかテンドンってなぁウドンの親戚か? あと、ナポリタンとかハンバーグってなぁ、なんだ?」

 うどんを履修したばかりの、生粋のイタリア人には日本の丼物など分からぬ。
ましてや日本で発明されたナポリとは無関係な魔改造スパゲッティなど当然ながら理解の外。
そして海外ではハンバーガーの方がメジャーになりすぎて元となったハンブルク風ステーキはあまり知られていないし、これも日本独自の進化を果たしている。

 未知のメニューに頭を抱えるカニ(仮)へ、なおも自分の食べたい物を必死にアピールする兄弟たち。

「うどんじゃねえよ、丼物のドンだ」

「どんぶり飯の上にカツ煮の玉子とじをかけたのがカツ丼で、牛肉と玉ねぎを甘辛く似たのをかけたのが牛丼。ついでに鶏肉を甘辛く煮て玉子でとじたのをかけたのが親子丼な」

「色んな天ぷらを天つゆに浸してどんぶり飯に盛ったのが天丼ザンスねー」

「ナポリタンって言ったらスパゲッティの定番じゃん! ナポリのスパゲッティじゃん!」

「ハンバーグはハンバーグだろ!」

「いんや、ナポリにゃ行った事ぁあるがぁ、ナポリタンなんて知らねーよ! ハンバーグってのはもしかしてハンバーガーの事か?」

 全く通じない説明を喚く兄弟らとなんとかメニューを類推しようと悪戦苦闘するカニ(仮)を横目に、瞬は隣で黙々と課題を片付けている兄へ身を寄せた。

「お屋敷の料理人さんのご飯も美味しいけど、僕は兄さんの作ったご飯が食べたいなあ」

 すると、敵対者には一切の容赦を見せぬ代わりに身内には極度に甘い一輝が手を止めて問い返す。

「何か食べたい物でもあるのか?」

「うん。オムライス」

「そうか。ならば明日、作るか」

 考えるまでもなく快諾する一輝の言葉を聞きつけた末っ子たちが、たった今カニ(仮)へリクエストしたメニューを放り出して便乗した。

「オムライス! オレも食いたい! オムライス!」

「オレも! オレも!」

 その一方でロシアで生まれ育った兄弟とイタリア男は首を傾げる。

「……オムライス?」

「また知らねえもんが出てきやがった……」

 一輝は他の兄弟らの意向を確認するように勉強室を見渡す。
丼物を熱望していた蛮、那智、市の3人も了承のサムズアップをし、静観していた檄と紫龍も頷いた。
大抵の子供が好む人気メニューであるから、知っている者が反対することもない。

 そんな兄弟たちの様子に、オムライスが何か分からぬ氷河も右手を挙げて了承を示した。

「そういうわけだ。明日の昼はオムライスを作る。アンタも手伝えよ」

了解だ、にぃちゃんシィ カポ。厨房にも、そう言っとくぜ」

「いや、今から必要な材料を確認して、無ければ明日の午前中に調達に行く。それと、誰か車は出せるか、聞かんとな」

「それは俺が伝えておこう」

「頼む、紫龍」

 運転手見習いと懇意にしている弟からの申し出を受け、カニ(仮)と共に食材の確認に行くかと思われた一輝だったが、不意に足を止めて弟の1人へ問いかける。

「邪武、明日のお嬢さんの予定は?」

「財団関連の会合へ出席されるが?」
 
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