Happily Ever After

□Saint School Life
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[7-1] UP DATE:2024/01/19
write by kaeruco。
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 Saint School Life
【Happily Ever After番外編】
07:初めての学食




 その日、登校してきた瞬を見たクラスメートの岸川啓吾は違和感を覚え、挨拶より先に問いかけた。

「瞬、弁当持ってきてねえの?」

「おはよう、岸川くん。うん。今日は食堂行ってみようと思って」

「あ、はよ。だったら一緒に行こうぜ! あ、もしかして弟くんらと行くのか?」

 挨拶をし直し、誘いの言葉を掛けてから訂正する律儀ではあるが忙しない岸川へ、カバンから1時間目の教科書やノートを取り出しながら瞬は頼み事をする。

「星矢たちも一緒なんだけど、できたら一緒に来て色々教えてもらえるかな? 僕ら学食って初めてだし」

「いいぜ。じゃ、2時間目終わったら食券買いに行こう。昼休みになるとめちゃ混みで選べないんだよ」

 早速、在校生の知恵が披露され、成る程と感心した。
始業前は朝練を終えた運動部の生徒が飲み物を買いに集まっていて、1時間目の終わりでは日替わり定食のメニューが分からない為、2時間目終わりが岸川的にはベストなタイミングらしい。

「ありがとう。助かるよ」

「あ、そーだ。それからさ、弟くんらに連絡して、クラスメート2人連れて来るよう伝えといてくれよ」

「それはいいけど、なんで2人?」

 岸川の提案に首を傾げる瞬へ、隣で聞いていた藤宮が補足する。

「学食のテーブルって6人掛けなんだよ。空席なんか作ったら相席狙いの女子がエゲツない争奪戦始めて食堂しっちゃかめっちゃかになると思う」

 藤宮自身も楽しそうだから覗き見したい気持ちはあるがお弁当を持参しているし、他の女子生徒からヘイトを集めるつもりはないのでついて行くとは言い出さない。

 そんな藤宮の言葉に岸川が頷き、瞬も容易にその光景が想像できたので携帯電話を取り出してメールを打ち始める。

「……そっか。うん、分かった。邪武に伝えておくね」

「星矢くんじゃなく?」

「星矢だと押し切られて女の子連れて来ちゃいそうだから、本末転倒かなあって……」

 多分、星矢について来るような女子生徒は多少のやっかみくらいは気にしないタイプだろうが、やはり昼食は平穏に楽しみたい。
そう願いを込め、瞬は打ち終えたメールを送信した。

「そ、そうなんだー」

「あの弟くん人懐っこそうだもんなー」

 そう。
やんちゃな末っ子気質は年上のお兄さんお姉さんの庇護欲や世話焼きを刺激して、大層可愛がられるのである。
本人は全く無自覚だが。



 
★ ☆ ★ ☆ ★




 そして昼休み。

 瞬と岸川は教室前で星矢と邪武、更に邪武のクラスメートと待ち合わせ、6人で食堂へと向かった。
初対面の者も居るので、互いを紹介しながら。

「クラスメートの佐橋と垣ノ内。兄貴の瞬と、弟の星矢」

 邪武の雑な紹介にクラスメートは苦笑しながらも自分で名乗り直す。

「佐橋陽介、よーすけって呼んで」

「垣ノ内慎だ。好きに呼んでくれて構わない」

 星矢らと背丈の変わらない生徒が佐橋、1人だけ背が高い方が垣ノ内、と。
2人は共にバレーボール部に所属しており、佐橋がリベロ、垣ノ内がアタッカーなのだそうだ。
競技ルールを知らない星矢たちには、ぼんやりとしたイメージしか伝わらなかったが。

「城戸瞬です。こっちはクラスメートの岸川くん」

「岸川啓吾。よろー」

「よーすけに慎な、よろしく! 星矢だ」

 岸川と佐橋らに面識は無かったが、コミュニケーション能力が高いのか普通に交流している。
ただ1人、クラスメートを連れて来ていない星矢だけ少しの不満と不可解さをあらわに問いただしてきた。

「てか、なんで邪武も瞬もクラスメート連れて来てんの? もしかして、俺も誰か連れて来なきゃいけなかった?」

 その疑問に答えたのは瞬であり、事前にメールで理由を知らされていた邪武が賢しげに諭す。

「岸川くんや藤宮さんに言われたんだ。食堂のテーブルって6人掛けだから空席作らないように人数集めた方がいいって」

「空席あったら、瞬狙いの女子が群がってくんだろうが。少し考えたら分かるだろ」

 言われれば星矢も納得できた。
しかし、である。
 
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