Happily Ever After
□Saint School Life
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UP DATE:2024/03/10
write by kaeruco。
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【Happily Ever After番外編】
09:初めてのお手伝い 城戸家の兄弟たちが学園に通い初めて数週間が経ったとある夜、家族用の居間で雑誌を眺めていた末っ子が深く重いため息を吐いた。
いつも天真爛漫なのに珍しい、と同じく寛いでいた兄弟たちが様子を伺う。
近くで読書をしていた同年の兄が声を掛けた。
「どうしたの、星矢? 何か悩み事?」
「あー、悩みって言うかさー。これなんだけどよー」
星矢が瞬に見せたのは、それまで眺めていたゲーム雑誌。
指し示すページには近々発売される新しいゲームソフトのレビューが並んでいる。
「ゲーム? 新しいのが出るんだ?」
「ああ、これ欲しいんだけどさ、今月のこづかいはもう残ってねえし、来月分足しても足りないんだよー」
城戸家の兄弟たちは学園に通うに当たり、筆記用具や参考書といった勉強に必要な物と学食やコンビニで昼食などを購入する為、それと普段着や趣味に使えるよう、毎月こづかいが渡されている。
家長と精神的長兄の協議により、一般的な中高生が親御さんから渡される額と大差ない一律5000円が。
星矢が見せてくるページに表示されている価格はひと月分のこづかいでは、確かに足りない。
それでも発売日まではまだ日があるし、再来月のこづかいまで合わせれば買えるのでは、と瞬は考えたのだが、背後から覗き込んで来た檄と蛮が星矢の金遣いの雑さを暴露してきた。
「星矢はよく弁当頼み忘れてコンビニで昼飯買ってる上に放課後にも買い食いしてたよな」
「それでマンガやゲームの雑誌も買ってんだから、使い過ぎだろう」
「最初に一輝が言ってたろ? よく考えて、必要な物だけ買えって」
尻馬に乗って那智まで星矢を責める。
「だって、しょーがねーじゃん! 昼飯食わないと腹減って授業受けらんねえし! 雑誌も欲しくなっちゃうし!」
「だったら、今からでも節約しろよ」
星矢の駄々っ子全開な反論に、那智は正論を返すだけだ。
しかし、檄と蛮は的確な改善点をあげてくる。
「とにかく、帰宅したらすぐ弁当箱を出して、その時に翌日の弁当頼むの忘れないようにするだけで、だいぶ違うと思うぞ」
「放課後の買い食い減らしたかったら、弁当多めにして貰って、昼に全部食わないで放課後に食べてから帰るとかしたらいいんじゃないのか?」
それはそうか、と星矢も納得する。
だがしかし、それでも今月中には購入資金を確保したい気持ちが勝る。
「それでも、次の次のこづかいまで待たなきゃなんねえの一緒じゃん! これ人気だから、発売日に買えなかったら次の入荷がいつになるか分かんねえんだよ!」
「だったらアルバイトしたら?」
叫ぶ星矢へ、瞬は不思議そうに問いかけた。
他の兄弟たちもその手もあるな、と頷いているが、星矢だけが腑に落ちない。
「校則でバイト禁止だろ!」
「お家のお手伝いは禁止されてないよ」
「……え? どういうこと?」
「星矢、給湯室のホワイトボード見てないの?」
「え? なんかあるのか?」
そこで百聞は一見にしかずという事で、瞬は星矢を居間と勉強室の間にある給湯室へと連れて行った。
ここは兄弟達が個人的に購入した菓子や食品を保存しておく為の棚や冷蔵庫があり、勉強や鍛錬の合間に軽食を取れるように一般家庭にあるような流し台とガス台が設えられていて、電子レンジや電気ポットも揃っている。
当然、しょっちゅう買い食いをしている星矢も日々利用しているのだが、ホワイトボードが何処にあるのかは皆目見当がつかない。
「ほら、これ」
瞬が指し示したのは出入り口の脇の壁に貼られた給湯室の掃除当番表、ではなく壁その物。
よく見れば、そこの壁だけホワイトボードに加工してある。
そして、当番表の近くには何枚かカラフルな付箋が貼られていた。
「お邸で掃除や修繕を担当する使用人さんたちが力仕事を頼みたい時に、こうして日時と仕事内容を貼ってくれるんだ」
付箋は色ごとに部署が割り当てられていて、1枚で1人の募集を示している。
同じ色で同じ内容の付箋が複数あれば、それだけの人数を必要としている、と分かる仕組みだ。