Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2020/09/17 write by kaeruco。
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「やったー!!」

「美少年! 美少年よ!」

 堰を切ったように上がる男子生徒の嘆く声より、女子生徒の喜びの声が勝った。
中には「……男の子でも、いや男の子だからこそいい……」と新しい扉を開いてしまった声もあるが、この喧騒では誰も聞き咎めたりはしない。
ある程度予想していた騒ぎに本人はかすかに苦笑を浮かべるだけだが、担任は他のクラスからの苦情を考えると早急に鎮静化を図りたかった。
大きく手を打って生徒たちの注意を引くと、編入生に座る席を示す。

「はい、出席取るから静かに! 城戸くん、荷物は空いてるロッカーに、席はこの列の後ろです」

 この学園の教室は廊下側にホワイトボードと教壇を据え、生徒達は窓に背を向けて座るように設計されていて授業中にぼんやりと窓の外を眺めたりはできない。
完全な勉強をする為の造りになっている初めての教室を眺め渡した瞬は6列に並んだ机の左から2列目、その1番後ろの席に着いた。
机の上に大振りのトートバックを載せたまま、出席簿を手に名前を読み上げる担任の声にこちらを気にしながら応えるクラスメートたちを眺めていると、自分の名前が呼ばれたので同じように返事をする。

 それから幾つかの連絡事項を述べた担任は朝のショートホームルームを終えて教室を出ていった。
残された生徒達がそわそわと編入生を見やり、誰が最初に声をかけるか牽制し合う中、注目を浴びている編入生の方から前の席の生徒に話しかけてきた。

「あの、ロッカー、どこを使えばいいのか、分かりますか?」

「え? あ、ああ。ちょっと待ってろ……」

 自分が様子を伺っていた相手から話しかけられた事で狼狽たその生徒は、周囲を見渡して誰も助けてはくれないと悟る。
腹を括って立ち上がると教室の両サイドに置かれた腰高の2段ロッカーのうち、席に近い1つを中身が空になっているか確認してからここを使えと教えた。

「鍵は掛からないから、携帯とか貴重品は入れない方がいいぞ。更衣室のロッカーには鍵掛かるボックスあるけど、体育とか授業以外では使えないから」

「そうなんですね。ありがとう。えっと、名前を聞いてもいいですか?」

 ずいぶん重そうなトートバックをロッカーへ大事そうに収めると、編入生は人懐っこい笑顔で名を尋ねてくる。

「岸川敬吾だ。城戸、でいいか?」

「同学年だけでも他に2人いるし、名字で呼ばれ慣れてないから、名前で、瞬って呼んで貰ってもいいですか?」

「わかった。そんでさ、やっばり編入生集団、みんな兄弟なのか? 何人いんの?」

 席に戻りながら話す2人の言葉に、クラス中が聞き耳を立てているのは互いに解っていて、続ける。
どうせ後で質問攻めにされるのだから、誰もが気になっている事は先に言ってしまった方がいい。

「僕の兄さんは1人だけですけど、義理の、というか戸籍上の兄弟は何人いるのか分からないんです」

「は?」

「じゃあもしかして全員、元理事長の養子って噂、ホント?」

 席についた所で隣の女子生徒が割って入ってきた。

「どんな噂か知りませんけど、養子なのは本当です。君は?」

「あ、いきなりごめんね。藤宮聖心よ、瞬くん」

 岸川も藤宮も特進クラスの生徒だけあって校則通りに制服を着用し、色も質も手を加えていないナチュラルな髪型だが特別気負って風紀を気にかけている様子もない、ごく普通の一般的な生徒のようだ。

 そのまま雑談に終わらず、次の授業で使う教科書とノートを取り出して、どの辺りまで進んでいるのかまで教えてくれる。
新学期が始まって既に2ヶ月近く経っている上に特進クラスだからか、瞬が予想していたよりも進みが早い。

「結構進んでるんですね。追いつくの大変そうだなあ」

「後でノートコピーしに行こうよ。選択科目は何にしたの?」

「ありがとう。助かります。第2外語はスペイン語を」

「じゃあ、俺と一緒だな。ちゃんとノートとってないけど、それでよけりゃ貸すぞ」

 休み時間に購買へ案内するついでにノートのコピーを約束した所で、最初の授業が始まる本鈴が鳴り響いた。

 
★ ☆ ★ ☆ ★



 編入生の加入によって一喜一憂した他のクラスとは違い、4年S組は概ねいつも通りに授業が始まった。
 
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