Happily Ever After
□Saint School Life
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UP DATE:2020/09/30 write by kaeruco。
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徒歩で帰宅する弟たちとは別に都心の仕事場へ向かうという一輝へ、喜田が駅までは一緒かと尋ねる。
「城戸もバスか?」
「いや、迎えが来ている……」
やけに平坦な声音で答える一輝の視線はロータリーの中程に停められた黒塗りの乗用車と、その車体に寄りかかって行き交う生徒たちを眺めている運転手らしき男に向けられていた。
ただの運転手にしては長い金髪を結い上げていたり、随分と仕立ての良い群青のスーツをモデルと見紛うスタイルの長身にまとっているのも目を惹く。
そしてサングラスをかけていても鼻筋や口元から相当な美形と思われるからか、多くの生徒が足を止めてその人物に見惚れていた。
「うおっ! でけぇなー、あの人。SPなのかな?」
「宮内庁御用達の最高級国産車! こんな所でお目にかかれるなんて!」
すかさず携帯電話を取り出し、写真を取り始める難波はどうやら車マニアであるらしい。
多くの生徒の目を惹きつける運転手らしき男に対し、邪魔だのなんだの悪態を吐く姿は普段と人が違っている。
「……やっぱ、すっげぇ目立つな。カノン……」
「……サガじゃないだけ、マシだと思うけどね……」
弟達と共に、もしもあの場に居るのがサガだったらと、想像しかけた一輝はひとつ息を吐いて考えを改めた。
今はそんなくだらない事を思って現実から目を逸らすべきではない、と。
そもそもサガはカノンから「お前はハンドル握ったら人格変わりそうな気がするからやめておけ」と説得され、運転免許の取得を見送っている。
車での送迎にサガが来るはずはないのだ。
ちょうど戻ってきたスクールバスに乗り込む喜田と難波とはバス停で別れ、一輝は注目を集めている男の車へと向かう。
突如現れた美丈夫に見惚れて立ち止まっている生徒たちの間を抜け、近づいてくる人物に気付いた男の方も歩道側へと移動して姿勢を正すと恭しく主人を出迎える。
「お待ちしておりました、一輝様」
「……迎え、ご苦労」
表情も変えずに応答する兄の背後で、弟2人は必死で笑いを噛み殺していた。
なんというか、完璧にお抱え運転手として一輝に応対するカノンはどこか不自然で白々しく、非常に胡散臭い。
あと、何故かはしゃいでいるのがダダ漏れだ。
めちゃくちゃ楽しんで悪ノリしている。
どうしてこんな大根役者に海皇ポセイドンは騙されたのか不可解だ。
どこか芝居がかった仕草で後部座席のドアを開けて主人が乗り込むのを待つカノンに視線もくれず、一輝は無表情に弟たちに告げる。
「じゃあな。2人とも寄り道せずに帰れよ」
「はぁい。兄さんもお仕事頑張ってくださいね」
「いってらっしゃーい」
一輝が乗り込んでから静かにドアを閉めたカノンは弟たちへもしっかりと会釈をし、運転席へ戻ると滑らかにハンドルを操作して大通りへと走り去った。
残された弟たちは周囲の視線から逃れるように、そそくさとその場を離れようと歩き出す。
小声でこそこそと話しながら。
「絶対、笑うの堪えてたよな、一輝……」
「僕には怒鳴りたいのを我慢してるように見えたけど……」
「今、あの車ん中、どうなってんだろうな……」
「うわぁ、すっごい面白い事になってそう……」
その真相は、財団での仕事を終えた一輝の帰宅後に明かされる───かもしれない。
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2020/09/26 〜 2020/09/30
UP DATE:2020/09/30