Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2020/10/07 write by kaeruco。
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後から考えれば仕方が無かったと思える部分も無くはないが、やはりもうちょっと気を使うか手を回すかしておいて欲しかった気持ちはある。

「えー、違うのー? だって皆、噂してるよ。お弁当、瞬くんが兄弟全員分手作りしてるってー」

 別に謙遜したりしなくていいのにー、と自白を迫る藤宮は噂を信じたいようだが、瞬としてはしっかり誤解を解いておきたい。
特に、お弁当の製作者の名誉はなんとしても守らねば、と気合がのる。

「どうしてそんな噂になってるのかが分からないんですが、僕、料理はしたことないです。昔から家事は兄さんが全部やってくれてましたし」

「えー、そうなんだ。え、じゃあもしかして、お弁当、あのお兄さんが作ってるの?」

「ええ。でも、兄さん忙しいから、我儘言って月曜日だけ作ってもらってるんです。他の日はお邸の料理人さんが」

 その会話を聞いていた数人の男子生徒が騒めいたり、項垂れたりしている。
きっと、噂に踊らされて良からぬ妄想でも抱いていたのだろう。

 しかし、藤宮が引っかかったのは別の言葉だった。

「……え、瞬くんのおうちって、料理人、雇ってるの?」

「僕たちが雇ってるわけじゃありませんよ。昔から城戸のお邸にいる料理人さんです」

 言われて藤宮は昨日、自分から尋ねた内容を思い出す。
彼らは元理事長───城戸光政の養子で、現理事長───城戸沙織の血の繋がらない叔父である、と。

「あー、そう言われれば、そうだよねー。そっか、そっかー……」

 つまり、彼ら個性的な10人兄弟は血の繋がらない姪っ子で美少女な理事長と共に、広大な城戸邸で使用人に囲まれて生活している、ということだ。

───それなんて乙女ゲー!?

 思わずそう叫びそうになった藤宮を誰も責められはしない。
むしろ声に出さずにいた事を、良く耐えたと称賛すべきだ。

 資産家の元に引き取られた個性豊かな少年たちと、相続人の美少女。
どう考えても、これは乙女ゲームにあっておかしくない設定なのではないか。
であれば資産家の美少女が主人公で、新たに家族となった少年たちと交流したり蟠りを解消したりしながら恋心や友情を育んでいくのだろう。
もしくは少年たちが心惹かれる別の少女がヒロインで、資産家の美少女は意地悪なライバル役にでもなるのか。
引き取られた少年たちにはそれぞれ秘密があり、資産家の後継者のパートナーに相応しい資質を見いだされた婚約者候補だとか真の後継者だったりするのもアリか。

 実際には、少年たちがゲームのような美形揃いという訳ではないので、そこが現実の限界ということかもしれないけれど───とそこで我に返った藤宮が携帯電話を取り出し、友人から送られてきた画像を瞬に見せる。

「……あ、そういえばさ。昨日、金髪ですっごい美形の外国人にナンパされてたって噂が流れてるんだよ。ほら、これ」

 黒塗りの国産最高級車越しに撮られた恭しくこうべを垂れる長い金髪を結い上げた美丈夫の画像には、確かに瞬も写り込んでいた。
しかし、どう見ても男が傅いているのは兄の方で、瞬は笑いたいのを必死で堪えようと変な表情になっているし、すぐ隣にいた末っ子は声が出てないだけで顔は完全に笑み崩れている。

「ナンパじゃないですよ。その人、兄さんの部下です。ほら、僕じゃなくて兄さんの方向いてるでしょう? 財団に向かう兄さんを迎えに来てたんですよ」

 そう言って自分も携帯電話を取り出し、今朝の成果から双子の部下を従えた兄の凛々しい姿を収めた画像を披露する。

「これ、今朝撮った兄さんと部下たちです」

 藤宮の持つ画像にも写り込んでいる国産最高級車の傍でドアを開けようとしている長く緩やかに波打つ金色の髪を結い上げた美丈夫と、同じような長い髪を三つ編みにして左肩から垂らした美形の男。
そんな2人から傅かれ、理知的な眼鏡をかけているのにどこか野性味を感じさせる黒髪の青年がこちらへ柔らかに微笑みかけくる。
やや逆光気味だが、被写体も彼らが着ているスーツも、腕時計や眼鏡といった小物、背景として写り込んでいる車やその向こうに広がる庭園。
全てが上質で、このままポスターサイズで出力して部屋に貼りたい───が、常時開放するにはあまりに眩しいので祭壇を作って普段はカーテンでもかけていたい───写真である。

「…………っ!?」
 
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