Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2020/11/23 write by kaeruco。
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城戸家で兄弟達が使う浴場は全員一緒に入れる広さはあるけれど、どうせならゆっくり手足を伸ばしたいと3〜4人ずつに分かれて使っているのだ。
先に風呂を使った檄と那智、それと氷河は水分補給をしながら課題や予習に取り掛かる。

「なー、一輝。これなんて読むんだ?」

「辞書を引け」

 プリントを突き出してくる末っ子を突き放すが、これは同じ事を何度も尋ねられた精神的長兄からの辞書の引き方をいい加減覚えろという愛の鞭だ。

「えー、ケチー! なー、瞬ー。兄ちゃんがオレにだけ冷たーい!」

「星矢、それさっきも聞いてた字だよ。もう、忘れちゃったの?」

「人に聞いてばかりで、自分で考えないから身につかないんだ。ほら、星矢」

 忙しい一輝にいつでも聞けるわけではないので、いい加減自分で解決する努力をさせなければならないと考えた兄弟達は末っ子に少し厳しい。
勉強室に備え付けの分厚い辞書を紫龍から手渡され、星矢は苦い顔だ。

「あー、もー、めんどくせー」

 不満を口にしながらも、ペラペラと辞書をめくって目的の語を探し出し、プリントに振り仮名を振る。
そんな末っ子の様子に、現代文の教科書と兄弟達を交互に見ていた氷河は電子辞書を取り出して自力翻訳を始めた。

 ちゃんと自分で調べた上でどうしても理解できない事ならば皆きちんと答えるのだが、星矢のように自分で調べたり考えたりしないまま億劫がって兄弟を便利に使おうとするのは誰もいい気がしない。
こうして兄弟たちの間にはルールという絆が出来上がっていくのだろう。

 それからしばらくは大人しくそれぞれに学習をしていたのだが、自分の課題に飽きた那智が器用にペンを回しながら口を開く。

「そういや、オレたちが風呂上がった時、なんか盛り上がってたけど、何話してたんだ?」

 無視するわけにもいかず、末っ子を引き受けた瞬と氷河を請け負った紫龍に目線で促された一輝が課題をこなす手を止めずに簡潔に答えた。

「……課外活動をどうするか、をな」

「ああ。なんか今日、騒いでたんだってな。てゆーか、3年までは全員なんかやんなきゃいけねぇんだっけ?」

「……それで、それぞれどこに所属するか、どんな活動をするのか、話してただけだ」

「ふーん。なあ、それ、オレらにも聞いてくれる流れじゃねえの?」

 課題に集中したいのか話を終わらせようとする一輝に、那智は食い下がる。
孤児として育った兄弟たちにとってずっと憧れだった家族───兄に構って貰えるのが嬉しくて引き際を見極められないのは、彼の子供の頃からの悪い癖だ。

 思えばかつてこの邸に集められた子供達の中で瞬だけがやたらと意地悪をされたのは、何をおいても味方をしてくれる兄がいる彼への密かな憧れと拙い嫉妬心からだったのだろう。
やり過ぎれば一輝が仕返しに来るのは分かっていても、自分と同じ筈なのに1人だけ守られている事を羨む気持ちは止められなかったのだ。

 まあ、腹違いの兄弟と分かってこうして同じ邸で暮らすようになってからは、一輝も兄弟全員を同じように扱っている。
一見、実弟を贔屓しているように見えたとしても、一輝本人は同じつもりだ。

 ただ、ずっと兄弟と接してきた一輝と瞬、そして姉のいる星矢や母と長く過ごしていた氷河と、全く家族と触れ合った記憶がないまま長く渇望してきた他の兄弟達との温度差がだいぶ違う。
いや、実弟の瞬や母親や姉に甘えて育った氷河と星矢も世間一般の兄弟としてはやたらと距離が近過ぎるし、そんな彼らを見てきた他の兄弟達も同じような距離感なのだが、気持ちテンションが高くなりがちだ。
そして、その空回った気持ちが扱いの差に現れるのである。

「那智。その課題、終わらせなくていいのか?」

 檄が気を回して話を終わらせようとするが、那智は止まらない。
自分の課題や予習に手間取っている星矢や氷河、彼らを手伝っている紫龍と瞬の邪魔にもなっているのに、尚も一輝に言い募る。

「蛮はいいとしてさー、オレや氷河にも、どこに入るか聞いてくれてもいいんじゃね?」

 そもそも今日の放課後に起きた騒動の顛末を尋ねた流れからそれぞれが参加する課外活動を報告し合ったり活動内容を話題にしていただけで、積極的に聞き出していたわけではない。
だから同じように、本日分の課題を仕上げた一輝は筆記具や参考書を片付けながら促した。

「……話しておきたい事があったのなら、話せばいい」
 
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