Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2024/03/10
write by kaeruco。
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見た目通りという事はなく、普段は場末のごろつきと変わらぬ言動が目立つ辰巳の挙動が心なしかビシッとしている。

 しかし、そんな人物と相対しても一輝が怯む事はない。
この度、兄弟たちへお小遣い制度を導入するにあたり、不足した金銭を補填する制度としてお手伝い制を導入したいのだ、と説明を始める。
その上で、使用人たちに頼みたい事がある、と。

「使用人たちに力仕事の一部をあいつらに頼むよう、できないだろうか?」

 この邸に勤める以上、プロとして主人家族に仕事を頼むのは本末転倒だろうが、と補足してから一輝は続ける。

「まず、普段の学校生活と家での訓練だけではあいつらも体力を持て余してる。何か、簡単でも、邸内でできる仕事でガス抜きをさせたい」

 本当なら毎週末、聖域に全員飛ばしてみっちり鍛錬をさせ、学校で能力をセーブさせている鬱憤を解消すべきなのだろう。
けれど、普通の学生生活を送らせるのなら、休日に友人たちと出かける事も考慮しなければならない。
だからこそ、聖域での鍛錬は月に1度と先に取り決めたのだ。

「それに、俺たちは人に何かを頼むのが苦手なんだ。だが、向こうから頼まれた事なら受け入れるし、そうやって交流しているうちに誰なら何を頼めるか分かって、自分の出来ない事を頼めるようになる事もある」

 理由を聞けば、なるほどと思える。

 実際、使用人たちは新しい主人家族が増えた事を歓迎していたが、食事や洗濯の総量が増えた以外に変化はなかった。
彼らは殆どの事を自分たちでやるように躾けられた普通の───いや、よりできた子供たちばかりだったので、基本的に手が掛からないのである。
つまり、張り切った使用人たちの多くに仕事が無かった。

 それが何を頼んだらやって貰えるのか分からなかったから、と言われれば納得する。
彼らだっていきなりお屋敷の主人として振る舞え、と言われてもすぐには使用人をうまく使うことなどできそうにない。

 それでも、このお手伝い制度の是非を判断するには決め手にかけた。

「それもそうよね。だけど……」

 再度、反論しようとする沙織の言葉を遮り、一輝が問題点を解消する手段を出してくる。

「もちろん、使用人の方でもなんらかのメリットがなければ頼み事なんてしてこないだろう。あいつらに仕事を頼んでいる間は監督者として給料を割り増しにする、とかできないか?」

「まあ、それならいいと思うわ。どうかしら?」

「それならば、よろしいかと」

 邸の主人たる沙織と使用人を束ねる家令の了承を得、お小遣い制度と共にお手伝い制度も確立されたのであった。



 
★ ☆ ★ ☆ ★




 そんな経緯があり、兄弟たちへは毎月一律5000円がおこづかいとして渡される事となった。

 同時に、兄弟間や友達同士での金銭の貸し借りは基本的に禁止とも言い渡される。
どうしても足りなくなった時は救済措置を教えるので沙織か一輝、家令の戌亥へ相談するように、とも伝えられた。

「このお金、何に使ってもいいのか?」

 初めてお金を持たされ、困惑しつつも期待に瞳を輝かせて星矢が問う。

「自分の生活に必要な物に、よく考えて使え」

 無駄遣いするなよ、という圧を込めて返される一輝の言葉にたじろぎながらも星矢は重ねて問い掛ける。

「えーと、たとえば?」

「文房具や洗面用品みたいに自分だけが使う物や、私服。後は学食や購買での買い物。放課後に級友と買い食いするのも構わない」

「え! いいの?」

 挙げられた意外な使い道に、星矢だけでなく他の兄弟たちも驚く。
だが当の一輝は当然だろうと涼しい顔だ。

「その金額内で収めるなら、な。ただし、飲料の一本でも毎日買ったらどれくらいの金額になるか、お前でも分かるだろう?」

 だいたい100円から200円の商品を学校帰りに毎回買うとしたら20〜25回。
それだけで小遣いの殆どが消えてしまう、と気付いた者はがくりと肩を落とす。
弁当を頼み忘れた時にコンビニや購買で買ったり、学食を利用したら一食で1000円近くを使ってしまうだろう事も合わせて考えると、軽々しく使える額ではないのだ。

 今月は既に半月過ぎているけれど、逆に文房具など必要な物をまとめて買い揃え無ければならない分、あまり余裕はない気もする。

「弁当、絶対に頼み忘れないようにする……」

「それがよかろう」
 
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