Happily Ever After

□Saint School Life
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UP DATE:2020/08/21 write by kaeruco。
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 とは言っても、都内とは思えぬ広大な敷地を持つ城戸邸から学園への通学時間の2割弱は邸から門外までの道程である。
車での出入りを想定した正門ではなく、徒歩での出入りがしやすい通用門から裏通りへと抜けて大通りを越えた先の学園を目指して彼らはやや急ぎ足で歩く。
10人という大人数なので背の低い順に2列縦隊───瞬は後ろから2番目を歩く兄の横について。

 大通りを越えて学園が近くにつれ、兄弟たちの前後にちらほらと同じ制服を着た生徒たちの姿が増えていく。
彼らもそれぞれの友人と合流しながら、見慣れぬ集団に無遠慮な視線を向けてきた。
まず、遠目からでも目を引く大柄な2人に、続いて目立つ色彩や異相を持つ氷河や市へ。
顔貌の判別がつく距離になれば長髪で涼しげな顔貌の紫龍や、美少女めいた容姿の瞬へと注目が移っていく。

 そんな周囲のざわめきを気にする事なく、兄弟たちは学園へたどり着くと生徒用の昇降口ではなく来客用の玄関から校舎へと入っていった。
兄弟達が持参した上靴へと履き替えている間に、一輝が代表して事務所の窓口へ本日からの編入生だと告げる。

「おはようございます。本日から編入する城戸です」

「おはようございます。全員一緒に登校してきたんですか?」

 応対に出た初老の事務員は微笑ましそうに仲が良いんですね、と呟いて机に置かれていたリストを手にした。

「とりあえず全員いるか確認させてくださいね」

 そういって1人ひとりの名を読み上げる。
点呼の習慣がなかった氷河だけワンテンポ遅れたものの、全員が常識的な返事をして無事に終える。
多分、市の「はいザンス」は許容範囲だ。

 点呼の間に一輝も上靴へと履き替えたのを確認し、事務員はリストを手に事務所を出てくる。

「では、職員室へ行きましょうか」

 先に立って歩き出す事務員の後ろに続いて兄弟たちは職員室へ向かう。
校舎の1番端にある事務所から1番近い階段を上がり、中央棟へ入れば職員室だ。
職員室の引き戸をノックもなく開けた事務員は声を上げる。

「編入生が来ています。担当の先生方、よろしくお願いします」

 その声に兄弟たちの人数を越える教員が一斉に立ち上がり、ずいぶんな早足で寄ってきた。
教員たちの表情は相当に緊張しているように見える。
最後に、かなり慌て気味にやってきた壮年の男が額の汗をハンカチで拭いながら、やたらと低姿勢で話しかけてくる。

「おはようございます、城戸様。えー、人数が多いので、そちらの会議室の方でお話させていただいてよろしいでしょうか?」

 そんな教師たちの様子に、兄弟の半数は自分たちの素性───学園の母体であるグラード財団創始者たる城戸光政の血縁者というものが、この学園では厄介な問題を引き起こす予感を覚えた。
事務員の態度は多分まともなものだったのに。

 特に、あの男の遺した物を利用する覚悟を決めていた一輝はここで正さなければ不味いと感じ、声に威圧を込めて教員たちを見渡す。

「構いません。それから、学園では我々は生徒です。どうか、普通の生徒と同じように扱ってください」

 会議室はこちらですか、と口調を和らげて問えば、教員たちは気圧されたまま肯く。
兄弟たちを促して踵を返した一輝は気を引き締める。

 この学園で起こる面倒を引き受けるのは自分の役目だ、と。
 
【続く】 
‡蛙娘。@iscreamman‡ 
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WRITE:2020/08/14〜2020/08/21 
UP DATE:2020/08/21 
 
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