Happily Ever After

□Golden Japanese Diarys
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UP DATE:2020/09/29 write by kaeruco。
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 Golden Japanese Diarys
【Happily Ever After番外編】
06.5:food 02.5〔食べ物 その2.5〕


 さて、城戸家の10人兄弟が学園へ通い始めたその日の昼時、邸で仕事をしている居候3人は初めて弁当を使うこととなった。
アフロディーテが担当しているバラの花壇が望める四阿、その優美な佇まいとは一線を画す素っ気ないが重量級の弁当箱───いわゆるドカベンが3つ並ぶ。
更に大きなおにぎりがそれぞれ4つ、そして大振りの椀には豆腐と根深の味噌汁が湯気を立てている。
寿司屋で見かけるような湯呑み茶碗にはたっぶり緑茶が注がれ、後は自分で勝手にやれと言わんばかりに薬缶と急須まで揃っていた。

「味噌汁は賄いだが、弁当はにぃちゃんと俺で作ったもんだ。さあ、有り難く食らいやがれブォナ ペティート

「これを朝から楽しみにしていたのだよ。いただきます」

「いただきます」

 食前の挨拶を唱和すると同時に箸を取り、まずは椀から味噌汁をひと啜り。
そして、揃って息を吐く。

「はー。なんだろうな、ミソスープを口にした時の感覚は。安堵感に近いが、少し違うのだよ」

「充足感とも近いな」

 彼らが日本で暮らすようになってまだ日は浅いが、それぞれ多少の差はあっても箸は使えるようになったし、こうして食器に直接口をつけてスープを飲む事への抵抗もない。
慣れ親しんだ物とは違ってもこれがこの国の食事マナーだと言われれば理解したし、どうしてこういう食べ方になっているのかを解説されて納得もした。
むしろ大変合理的だと感心さえする時がある。

 それはきっと公園や街角の屋台で買った物は手掴みでかぶりつくのが醍醐味で、態々テーブルに着いてカトラリーを使って食するのは味気ないと感じるのと同じだ。
料理にはそれに相応しい食べ方があるのだから。

「サバにカレーの風味は合うのだな。トリのカラアゲもいいが、サバもいい」

「カボチャはこんなに甘い物だったのか。いや甘いだけでなく旨みも塩気もあるし、なによりくどい甘さではないな」

 味噌汁からおかずに続いておにぎりにかぶりつくと、それぞれが嬉しそうな顔つきになった。
どうやら好物の具だったようで、アフロディーテは焼き鮭、シュラは山葵昆布をおかずを挟みながら食べ進める。
星座が食の好みに影響を与えるとは思えないのだが、不思議と元山羊座は野菜から、元魚座は魚から消費していく。

「ほう、ミートボールと茹で玉子にかかっているトマトソースは懐かしい味だな」

「ああ。意外と飯にも合うのだな」

 2つめにふりかけを混ぜ込んだおにぎりを手にした2人の食レポを聞きながら、海苔を半分巻いた梅オカカのおにぎりにかぶりついたカニ(仮)が身も蓋もない事を言う。

「……ようは旨いって事だろうが」

「君は料理人の癖に、食べる人間の正直な感想には興味がないのか?」

「こっちとしちゃあ何を言われようがな、食べ終わった皿を見る方がよっぽど伝わんだよ。ほら、食え食え」

 手掛けた本人からそう言われてしまえば、そういうものかと2人は次のおかずで口を塞ぐ。
目の前で褒められるのが照れ臭いのだろうな、とも考えるが。

 おかずのほとんどは彼らにとっては最近覚えた醤油や味噌などの新しい味覚だが、トマトソースだけは長年慣れ親しんだ味に近い。
手に入る材料は違うから同じ味にするにはまだ試行錯誤が続くだろうが、いずれはあの頃より美味い物が出てくるはずだ。

「んでよ。お前らそれで足りるか?」

 あらかたおかずを片付けたところで、緑茶をすすりながらカニ(仮)が問う。
砂糖を入れない緑茶にも慣れたな、と感慨にひたりながら。

「まだ入るけれど、腹8分目と言うのだろう? 午後の作業をすれば、ちょうど午後のお茶の時間にはまた空腹になっているさ」

「オレはちょうどいいが、今後を考えると控えめにしていくべきかもしれん」

 園丁として肉体労働に従事するアフロディーテはともかく、以前に比べると格段に運動量が減ったシュラとカニ(仮)は食事量を調整する必要があった。
おにぎりを互いに3つで止め、物欲しげに見ている魚座に残りを譲る。
 
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