Happily Ever After
□Golden Japanese Diarys
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UP DATE:2020/09/29 write by kaeruco。
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Golden Japanese Diarys
【Happily Ever After番外編】
07:culture 01〔文化 その1〕 これは、サガが身の振り方を決められずにもだもだしていた時分の出来事である。
暇を持て余したのだろう居候3人が蔵書室を訪れるや、窓辺に距離を空けて置かれた1人掛けのソファでそれぞれ分厚い書籍を紐解いていた一輝とカノンを取り囲んだ。
「おい、にぃちゃん。なんかオレらでも読めそうなモン見繕ってくれや」
まるで通りすがりに因縁つけてきたチンピラみたいな口調だが、内容は真っ当な要求だと理解した一輝が応対する。
「……何かを勧められる程、お前らの為人を知らんのだがな」
「だからこそ、君に頼むのだよ。要は互いの相互理解の為に対話をしようということさ」
華やかな容姿で芝居がかった仕草で語られると、落ち着いた調度で飾られた蔵書室が歴史ある劇場かのように錯覚しそうである。
「何しろ私たちと君は蘇った時が初対面だ。互いに存在を知ってはいてもな」
「なるほど、正論だな。カノン、コイツらの相手をしてくるが、構わんか?」
「ああ、すまんな。終わったら、また頼む」
「分かっている。さて、まずは誰からだ?」
先に何かをやっていたカノンに断りを入れ、一輝が立ち上がるとシュラが申し訳なさそうに尋ねた。
「中断させて悪いな。カノン、とは何を?」
「日本語の勉強というか、英訳の注釈を参考にちょっとした解説だ。1人でも読み進められるみたいだから、気に病むことはない」
この邸の蔵書室は家人の趣味で集められた書籍が殆どだが、海外からの客人が暇を潰すのにも利用される為、日本贔屓の外国人が興味を持ちそうな本も多い。
時に有名な日本文学であったり、文化風俗の解説本───所謂『スシ、ゲイシャ、サムライ、フジヤマ』な書籍は出入り口に近い棚に置かれている。
その入り口近くに設けられた腰高の本棚まで移動した一輝が、棚の一角から抜き出した一冊をシュラに渡す。
「第一印象として、アンタにはコレだな」
「こ、これはっ!?……」
一輝が差し出した前聖戦よりも古い時代の剣豪が剣士としての心構えを綴った書は、実はかつてからシュラが機会があれば読みたいと思っていたものだ。
「こっちの文庫が現代語訳で注釈もついているが、英訳された物がいいか?」
「……両方を、借りてもいいだろうか」
「これは持ち出していい物だからな。読み終わったら、カウンターの上にある箱に入れておけ。使用人が元の棚に戻してくれる。関連書籍もこの棚に揃っている」
既に本の内容に没頭しているシュラは答えないが、蔵書室の使い方と棚の配置は入り口横のカウンターに英語で表示されているから次に1人で来ても困る事はないだろう。
そう判断した一輝は次の人物───アフロディーテに向き合う。
「さて、次はアンタか……。
源氏物語は知っているか?」
「1000年前に女性によって書かれた王朝ロマンス、という事はな。なんだ、君は私に恋愛小説を勧めるつもりか?」
入り口からカウンターとは別の向きに置かれた棚へ向かい、そこから数冊組の書籍を抜き出した一輝はそういう理由ではない、と告げる。
「アンタ園丁の仕事始めたんだろう? 日本では源氏物語に出てくる女の名前が植物につけられてたり、章題が物の順番になってたりしてな、庭師として必要な知識だと聞いた覚えがある。あと、恋愛小説と言われてるが、政治劇としても面白い」
伊達に1000年も読み継がれていないのだ、と別の側面を推してから更に興味を引くような事を付け加える。
「主人公は光り輝くような美男子だが、恋愛も出世の足掛かりにする野心家だ。だが、その野心故や時に親友に唆されて失敗もするからか、どうにも誰かを思い出させる」
その視線が窓辺で真剣に書籍を紐解くカノンに向いている、と気付いた2人が盛大に吹き出しだ。
一輝が示したのはカノンでも、その姿から彼らが思い浮かべたのは付き合いの長いサガである。
言われてみれば、一輝が上げた主人公像は確かにサガを想起させた。
唆したのは親友ではなく、双子の弟だが。