Happily Ever After

□Golden Japanese Diarys
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UP DATE:2023/12/11
write by kaeruco。
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 Golden Japanese Diarys
【Happily Ever After番外編】
09:food 03
〔食べ物 その3〕




───これは、居候たちが城戸家での生活に馴染み始めた頃の出来事である。

「なあ。明日の昼食は結局どうなったんだ?」

 居候専用に開放されているサロンで中国の古い軍記小説を肴にロックグラスに注いだラムを味わっていたカノンが、厨房からツマミを見繕ってきたカニ(仮)へ問いかけた。

「そりゃ、坊主たちのご希望通り『にぃちゃん作のオムライス』さ」

 昼間、明日の昼食のリクエストを兄弟らへ聞きに行った際、未知のメニューを次々と要求されてまだまだ勉強が必要と実感したカニ(仮)である。
色々とリスエストはされたが結局、瞬の兄へのおねだりという鶴の一声により、オムライスに決まったのだ。

「いや、どんな料理か分からんから聞いたんだが」

「安心しな、オレもだ」

 しかし、料理などしたことも無い者はもちろん、城戸家厨房の見習いとなった料理好きなカニ(仮)ですら聞いたことのない料理だ。
名前から察するに、オムレツにライスを組み合わせた物のようだが、正解は全く分からない。

「まあ、にぃちゃんが言うにゃ、チキンピラフをオムレツで包んだ料理らしい。当然、スープやサラダも付けるがな」

 食えないもんは出さねえさ、とカニ(仮)は自分もグラッパをショットグラスに注ぎ、ちろりと舐める。
彼が用意してきたツマミは薄くスライスした干し柿というドライフルーツと、いぶりがっこなるスモークされた漬け物ピクルスをそれぞれクリームチーズと共にクラッカーに乗せたものだ。
当然、味見はしている。
どちらも癖はあるものの酒に合う、中々に乙な味であった。

 よく冷えた辛口の白ワインを楽しんでいたシュラとアフロディーテが早速手を出し、未経験の味に唸ったり感心したりしつつ杯を干していく。

「しかし、意外だったな」

 1人だけ温かい紅茶のカップを手にしているサガも干し柿とクリームチーズを乗せたクラッカーを齧りながら、感慨深げに呟く。

「一輝が料理も出来るとは思わなかった」

 確かに、と同意する元反逆者3人組を他所に、神を誑かした双子の弟が兄の言葉を否定した。

「いや、あいつが家事全般出来るのは少しも意外じゃないだろう。逆に納得感しかない」

「そうか?」

「前に話したよな? アイツは弟が生まれてからずっと面倒を見てきたって」

 特に弟が2歳になるまでは養子や里子として引き取られて離れ離れにされる可能性が高く、他人に任せられずに極力自分でなんとかしていたのだろう、と。

 乳幼児は特に手が掛かるし、そもそも瞬が生まれた時には一輝自身もまだ2歳になったばかりのはずだ。
自分だって、まだ大人に面倒を見てもらわなければならない時期だったはずだが。

「普通なら考えられんが、あの一輝だからな。それに瞬の行儀の良さを見せられたら、本当にきちんと育ててきたのだろうよ」

 そう説明されれば、ちょっとした生活の困り事を相談すれば即座に解決策が出てくる事も合点がいく。
明日のアシスタントを仰せつかったカニ(仮)も言われてみれば、と持ち込んだ食材の取り扱いについて受けた注意を思い出した。

「そういや言われたわ。ヨーロッパ産の非加熱の小麦製品は冷蔵庫で保管しろって」

 ヨーロッパでは気候的に問題ないのだが、小麦には虫の卵が産みつけられていて一定の気温になると一斉に孵化してしまう。
その為、高温多湿な時期もある日本産の小麦製品は製粉する際に砕卵機にかけられている、と。

 この事を知らずにヨーロッパ製の小麦製品───つまりはイタリア人にとっては大事な主食である乾燥パスタを常温で保管していると、大変な事になる訳だ。

「おい、待て。お前、自室にパスタをストックしてなかったか?」

「そう言えば、バックバーにパスタも並んで居たような……」

 カニ(仮)が使っている客室の居間に立ち入った事のあるシュラとアフロディーテが表情を引き攣らせて距離を取る。
部屋に設置されたミニバーの棚に酒の瓶と一緒にパスタストッカーが並んでいたのを思い出したのだ。
 
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