Happily Ever After

□Golden Japanese Diarys
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UP DATE:2024/01/05
write by kaeruco。
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 Golden Japanese Diarys
【Happily Ever After番外編】
10:Anniversary 01〔記念日 その1〕


───これは居候達が城戸邸で暮らし始めて1ヶ月程経った頃の出来事である。



 日曜日の夜。
厨房で明日の昼食用に弁当のおかずを仕込んでいた一輝へ、アシスタントである住み込みの料理人見習いのカニ(仮)が作業中の雑談として問うてきた。

「この国じゃどんな風に誕生日を祝うんだ?」

「知らん」

 野菜を刻みながらのすげ無い返答だが、一輝の生い立ちでは普通の事を聞かれても答えようがない。
彼が唯一覚えている母親に祝われた2歳の誕生日も、多分一般的な誕生日の祝いではなかった筈だ。
特に何かするでもなく、ただ臨月間近の母親と弟が無事で産まれてきてくれればいい、そう話していたのだから。

 最も長く母親と過ごした氷河なら誕生日を祝われた記憶はあるはずだが、育ったのはロシアであるからこの国の普通は分からないだろう。

「俺たちは孤児院や養護施設育ちだからな。日本の一般家庭でどんな風に誕生日が祝われているのかは、知らん」

 施設でも誕生祝いというのは一応あったのだ。
ただ、正確な日付の分からない子供も居たので、月の半ばでその月生まれと思しき子供たちをまとめてお祝いの言葉を贈り、普段より少しだけ豪華な食事かお菓子が振る舞われるくらいのこと。

 一応、絵本だとかテレビ番組とかで誕生日を祝う場面は見た事もあるにはあるけれど、それが本当に一般家庭でも行われているのかを知る術はない。

「そういうのはお嬢さんに聞け、と言いたいところだが……」

 一輝の濁した言葉に、カニ(仮)もため息を返す。

「あのお嬢さんの誕生祝いが普通じゃなさそうってなあオレでも想像がつくんだわ……」

「……凄まじかったぞ」

 この邸に集められて修行地へ送られるまでの1年間、城戸家の沙織お嬢様に関する行事は傍観していた孤児達にとっては毎回途轍もない衝撃だった。
世界が違い過ぎて、羨ましいとすら思えない。

「あー、なんか、すまねぇな」

 流石に申し訳なさが勝って謝ってしまったが、割となんでも知っている便利なこの少年が持つ行事知識は最底辺と頂点に偏っている、とカニ(仮)は理解した。

 しかし、どうしたものか。
首を捻るカニ(仮)へ一輝は頓挫した筈の話題を続ける。

「先月は辰巳と檄、それから双子どもが誕生日だったが、特に何もしてなかっただろう?」

「あ、ああ。まー、色々込み入ってたしなー」

「お嬢さんは個人的に贈り物はした様子だが、アンタが聞きたいのはそういう事じゃなさそうだしな」

 黄金聖闘士であったこの料理人見習いが担っていた星座の誕生月が間近だ、と気づいた一輝は背中を押す。

「なにかしたい事でもあるのか? 許可さえ取れば、アンタがやりたいようにやればいいと思うが」

「許可?」

「まず、お嬢さん。あと、料理長」

 何をやろうとしているのか、察しての根回し先だ。

「なるほどなあ」

「手伝いはいるか?」

「いんや。弟どもの好き嫌いと、この時期に使える食材の情報だけ貰えりゃいい」

「分かった」

 ありがた過ぎる申し出までしてくれる察しの良い相談先で良かった、とカニ(仮)は彼への信頼を厚くした。



 
★ ☆ ★ ☆ ★




 そして6月も下旬に入ったある日の昼食の事である。

 食堂へ集まってきた邸の住人たちへ、本日のホストであるカニ(仮)は高らかに宣言した。

「本日のランチはオレ様の誕生日の振る舞いだ! 遠慮なく食いやがれボナペティートガキども!」

「って、自分で自分の誕生日祝うのかよ!」

 しかし、日本人には慣れない習慣に即座に末っ子がツッコミを入れてくる。
だが、カニ(仮)は益々誇らしげにコックコートの胸を張る。

「当然だろーが、ガキども。誕生日ってなあ、これまで生きてきた日々を家族、友人に感謝する日だぁ。イタリアじゃ自分の誕生日には家族や友人に食事を振る舞うもんなんだよ」

 

 
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