Happily Ever After

□Golden Japanese Diarys
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UP DATE:2024/01/05
write by kaeruco。
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 そう返されれば、馴染みのないだけで納得の行く風習であるから兄弟たちは素直に揃って感心してしまう。
スペインやギリシャ、スウェーデンでもそういった習慣はあるようで、居候組は特に驚いてはいない様子だ。

 白いクロスの中央に赤と緑のセンタークロスが掛けられ、その両脇に大皿や大鉢に盛られた料理が並ぶ大きな長机に兄弟と居候が着席し、それぞれ飲み物を手にカニ(仮)の誕生日を祝う乾杯を行ってから賑やかな昼食が始まる。

 トマトソースを纏った手打ちのショートパスタに、チーズクリームソースのラビオリ、肉料理はポルタモネータ───チーズを挟んだカツレツ、魚料理のアクアパッツァは大きなスズキが丸ごと皿に乗っていてホストが見事なサーブをしてくれた。
新鮮な野菜にオリーブオイルとチーズをたっぷりまとわせたサラダもあれば、デザートドルチェはサクランボとフローズンヨーグルトを使ったセミフレッドであり、飲み物は未成年たちに合わせてレモンスカッシュが用意されている。
ワインは無いのか、と大人たちはいささかがっかりした顔を見せたけれど、とても豪勢で美味なランチに誰もが笑顔だ。

 そんな楽しい食事の最中。

「ところで、日本ではどんな風に誕生日を祝うんだ?」

 ロシア生まれの氷河が素朴な疑問を投げかけるが、日本での一般的な誕生祝いを経験した兄弟は居ない。

「ケーキに年の数のロウソク立ててお祝いするって、聞いたことはあるけど」

 テレビや本で見た通りであれば、こんなものらしいという知識を瞬が説明すると、氷河は想定外の答えに驚いた。

「ケーキ? パイではなくて?」

「ロシアでは誕生日にパイを食べるのか?」

 紫龍の疑問へ頷く氷河。
では彼の誕生日はそのようにしよう、と年長者たちが視線を交わした。

 誕生日にケーキを供する国は他にもあり、ロウソクの火を一息で消すとその1年は幸運に恵まれるとか、願いが叶うと言われている。
そんな他国の誕生日祝いの知識も交わされる中、なにかを思い出そうと頭をフル回転させていた末っ子が手を叩き合わせ、声を上げた。

「そうだ! 誕生日と言えばあれだよ! 施設でもさ、歌ったじゃん!」

「あ、そう言えば歌ったね」

「あー、あったあった」

 末っ子トリオだけでなく、年長の兄弟らも思い出していた。

「よっし! カニ(仮)の誕生日を祝ってー」

 真っ先に声を張り上げる星矢に続いて兄弟らだけでなく居候たちも歌い出す。
途中、祝うべきカニ(仮)の名前でもたついたが、なんとか持ち直して全員で歌い切った。

誕生日おめでとうボォン コンプレアンノ

 仕上げに、イタリア語をはじめ兄弟たちや居候らが知っている言語で祝いの言葉を上げて盛大な拍手で締め括る。

「カニ(仮)誕生日おめでとー!」

「いつも美味しいご飯作ってくれてありがとう!」

「これからもよろしくなー」

 予想外の祝いに降参とばかりに両手を天に向け、カニ(仮)はぼやいた。

「……あー、こりゃ最高の誕生日、だ」



★ ☆ ★ ☆ ★




 その夜、すっかり恒例となった居候専用サロンにて、双子たちはちょっとやさぐれていた。
彼らも先月末に誕生日だったのだが、それどころではない状況でもあって忘れていたのをカニ(仮)の誕生日を祝ってようやく思い出したのである。
一応、沙織から『就職祝い』として揃いの腕時計を贈られたが、あれは誕生日プレゼントでもあったのだろう。

「……無念だ」

 家主や兄弟たちへ世話を掛け通しの感謝を伝えられる絶好の機会であったのに、とサガは白ワインのグラスを干す。
向かいに座るカノンはすでに切り替えた様子で、空のグラスに白ワインを注いだ。

「来年、挽回しようぜ」

「ああ、そうだな」

 弟から注がれたワインを一口味わって、ため息のように新たな悩みを吐き出す。

「……その時は、何を振る舞ったらいいだろうか?」

「いや、お前は料理できねーだろーが」

 即座に弟に突っ込まれ、それはそうだが、と口籠った。
すかさず、横からカニ(仮)が口を挟む。

「しっかり働いて金貯めて、あいつらをそこそこ良い店に招待するのが無難じゃねえの」

 

 
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