You'll never walk alone

□青く深き王国
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 真っ黒な眼は小さく落ち窪んだようだったが、実に人懐っこそうな顔で笑いかけてくる。

 その笑顔にサクラは微笑み返した。

「よろしくお願いします、カフさん」

 まだ少女とも言えるサクラに微笑まれ、カフはますます顔を皺くちゃにして笑う。

「こちらこそお願いしますです。あの、マナ様、それで……あの方は、見つかったですか?」

「ええ。あちらに」

 そこへ舵をサスケにあずけ、イルカがやってきた。

 ちらちらと後を気にかけているのは、自分も舵を取りたがったナルトとの言い合いが耳に入ってくるからだろう。
 見かねて、サクラが入れ替わりに船尾へかけてゆく。

 サクラに叱られるまでもなく、流石のナルトも多くの船が沈んでいるのを見たこの海で、サスケから舵を奪い取るようなことはしないだろう。

「イルカさん。こちらは、カフ。この先は彼が舵をとります」

 マナはまずイルカへカフを、次にカフへイルカを紹介した。

「この方が、うみのイルカさん。木ノ葉隠れに渡った、うみのの方」

 イルカとカフは互いに手を差し出して握手をしながら、改めて名乗りあう。

「うみのイルカです。よろしくお願いします、カフさん」
 
「カフでいいです、イルカ様」

 だが、様付けで呼ばれてイルカは慌てた。

「やめてくださいっ。様なんてっ! イルカでいいですっ!」

「そんなわけにゃいかねえです。イルカ様って呼ばねば、オレ、叱られますです」

「いや、でも……」

 繰り返される『イルカ様』と、うろたえる恩師の姿に、船尾で子供たちが盛大に噴出していた。


 



 小船の先導にカフが舵を取り、船は礁の入り組んだ海を進んでいく。

 イルカは疲れたように舳先にもたれかかっていた。
 もちろん、思いっきり噴出してくれたナルトには思い切りのいい、なんとか堪えようとしてくれたサスケとサクラには加減をしたゲンコツをくれてやってから。

 格式の高い依頼先で虚栄心剥き出しの様付けなら覚えがある。

 だが、こんな風に善意や尊敬だけで呼ばれることには、慣れていない。
 それに、イルカには彼から敬意を払われるようなことは何一つないはずなのだ。

 イルカの傍らにマナが近寄り、苦笑を堪えて言った。

「この国では、うみの家の方は英雄なんです」
 
 島では、こんなことばかりですよ。

「私も、本当はイルカ様ってお呼びしたかったんですけど」

「やめてください、本当に。そういうガラじゃないんです……」

 それにオレが英雄なわけじゃないでしょう。

「オレはガキの頃から出来が悪くて、普通って言うのも変ですけど……平凡な中忍でやってきたんです」

 そう呟くイルカの微笑は、少し苦い。

 けれど、その傍らで同じように微笑んだマナの表情も、よく似ていた。

「私は、生まれた頃から、ずっと1人でした」

 父は私の生まれる前、母も私を生んだときに亡くなったそうです。

「それでカフの父親に育てられたのです。大事にはしてくれましたが、まるで主人にでも接するようで……。カフだって、兄弟みたいなのに、マナ様って呼ぶんです」

 孤独だったわけではないが、寂しさは感じたのだとマナは言う。

「だから、同じ立場の人ができて……少し嬉しいです」

 そう言って笑うマナは、本当にイルカと良く似ていた。

「でも、イルカさんはお嫌そうですし、皆にはできるだけ呼ばないよう、言ってみます」

「……お願いします」
 
 
write by kaeruco。
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