You'll never walk alone
□青く深き王国
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「60年前までは、この島は今よりずっと大きな島で、この山ももっと高く険しくて、人が近付くことがなかったのだそうです」
だが島が沈んだ時、山は辛うじて中腹までが海上に残った。
その残された僅かな土地で、僅かな人々が生き延びたのだという。
「元々、山は禁足地だったので、ここで暮らすことを拒んだ人もいました。逆に国を失った私たちに、神様が残してくれたのだと言う人も……」
折角、生き延びたものの、考えの違いが諍いを生み、礁の国の人々は散り散りに旅立っていったのだと。
「……今となっては、どちらが正しかったのか……誰にも、いえないけれど……」
マナはそう締め括る。
もはや道とは呼べない場所を抜け、ようやく山頂へ辿りつく頃には、島へ着いた時には中天にあった日もだいぶ西に傾いている。
だが、暮れ始めの空に彩られた眼下に広がる世界はまさしく絶景だった。
石灰岩を多く含んだ白い峰の山頂は、影とのくっきりとしたコントラストが生まれている。
そして、その中央は深く抉られ、漣だった青い湖が煌いていた。
海から離れるほどに薄まっていた潮の匂いが、ここでは急に強くなっている。
多分、どこかで海とつながっているのかもしれない。
内輪から湖の上へ半分ほどせり出すように建てられた、白い石造りの簡素な社のようなものもあった。
入口とおぼしき扉はぴたりと閉ざされ、塞ぐように文様の刻まれた丸く黒い岩が置かれている。
その傍らにボロボロの布を敷き、白く少ない髪を1つに結い上げた老人が座っていた。
「ただいま、フナ」
「おお、マナ様! お帰りなさいませ!」
マナが声をかけると、その老人──フナは立ち上がって迎えた。
「こちらが、うみのイルカさんよ」
「はじめまして。うみのイルカです」
ぎこちなく挨拶するイルカも、フナは大仰に喜んで迎える。
「おお、よくぞお戻りくださいました! イルカ様!」
そう言ってがっしりと両手を握り、よくぞお戻りくださいましたと繰り返す。
「うみのの方がお戻りになれば、あの《力》も封じられます」
「フナ」
だが、感激に眼を潤ませるフナへ、マナは告げる。
「……イルカさんは戻ってこられたわけではないの」
「なんですとっ」
「木ノ葉隠れの里へ、封印を守ってくれるよう依頼したの。火影様のお計らいで、この国に縁のあるイルカさんたちを派遣してくださったけれど、全てが解決すればイルカさんは帰ります」
マナは辛そうに、それでも真実を告げる。
「もうイルカさんの国は礁の国じゃないわ。火の国、木ノ葉隠れの里の人なの」
「……そうですか」
落胆した気持ちのまま、フナはその場へ座り込んでしまう。
申し訳ないイルカは、なんと言葉をかけるべきか迷っていた。
ただ、残るとは言えない。
「フナ、仕方がないわ。私たち、60年も前に違う場所で生きる事を選んだんですもの……」
「……マナ様」
呆然とするフナへ気丈にもマナは微笑んでみせる。
「さ、フナ。話して頂戴。木ノ葉の方々に、私たちの事情を……」
「……は、はい」
マナに支えられ、フナは元の敷物の上に座りなおすとしばらく傍らの岩を撫で、そしてようやく口を開いた。
「……これは、礁の国……いえ、この島に古くから伝わる話です……」
フナの隣りにマナ、正面にイルカ、その後にサクラを真中にしてサスケとナルトも腰を下ろす。
いまや空は赤さを増し、大地は闇に支配されつつある。
「人が生まれた時、成した《力》がこの山に眠っている、と。60年前、ワシはその秘密を守る家の者でした……」
強く照り付けていた太陽は沈み行き、深い海の色に似た空には一つ、明星が輝きだしていた。
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2005/09/21
UP DATE:2005/10/10(PC)
2008/12/31(mobile)