You'll never walk alone

□青く深き王国
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 商人と侮っていた男が膝をつくイルカの襟首を掴み、マナの方へ放り投げた。

 体の自由が利かないのか、イルカは受身も取れずに社の扉に叩きつけられ、マナの傍らへ崩れ落ちる。

「この男の血が」

 べったりとイルカの血のついた手で、社前に置かれた黒い石へ触れる。

「この国を滅ぼした《力》の源だということを」

 くのいちたちの攻撃を受け流しながら、カカシは男の言葉を聞いた。

「そして、娘の血が全てを封じていることも」

 ぐったりとしたマナへ近付き、男は彼女の血にも手を伸ばす。

 男は2人の血に染まった手で、再び黒い石に触れた。

 僅かな血だったはずだが、男の手が触れたところからじわりじわりと血が流れ出していく。
 やがて文様の一筋一筋に血が通い、黒かった石が赤く染まった。

「ふははははっ! これで、我が父の願った世界となるぞっ!」

 狂気に近い、満足げな声で男は天を仰ぐ。

「さあ、目覚めろっ」

 男の声に応じるように、湖が閃光を放った。
 島全体が鳴動し、湖を囲む崖が崩れ始める。

 ナルトたちの足元にも亀裂が走り、湖へ張り出した社が傾いてゆく。
 
 イルカはどうにか身を起こし、マナを抱え上げて離れようとするが、とても間に合わない。

 砕けていく湖の縁や社に飲み込まれ、2人の姿は光る湖へ消える。

「イルカせんせーっ!」

 必死で駆け寄ろうとした行く手は敵に阻まれ、誰も彼らを助けることはできなかった。

 そして静寂が訪れる。

 気づけば、さっきまで朝の晴れた空が広がっていた頭上には重く暗い雲が立ち込め、急速に薄暗くなっていく。

 雷鳴に似た音が轟き、湖の中心から一筋の水流が立ち上がる。

 それは、深い青。

 暗き海の中の根源。

 強大な恐ろしい獣の姿をした《力》。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2006/03/31
UP DATE:2006/04/27(PC)
   2009/01/01(mobile)
 
 
青く深き王国

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