You'll never walk alone

□Cherry blossoms
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Cherry blossoms
〜 さくら 〜

 


 満開の花の下、サクラは疲れた足を止めた。

 見上げた桜色の雲の隙間に、暗い夜空と朧な細い月が覗く。

「きれい……」

 呟いてみたが、風景に心を奪われてのことではなかった。

 何かを吐き出さなければならない息苦しさに、喘いだようなものでしかない。

 桜の花の咲き誇る様や散り際の美しさは、毎年毎年繰り返される変化のない光景だ。

 特にこの花は……。

「サ・ク・ラっ!」

 すぐ傍らに、いのが嬉しそうな顔を突き出してくる。

 この頃は背後を取られるようなことはなかったのに、随分ぼんやりしていたようだ。

「どうしたのよ、こんな時間に……」

 誤魔化すみたいな言葉しか返せないくらいに疲れている。

 肉体的にも、精神的にも。

「アンタを、待ってたのよ」

「待ってた?……」

「そ。こっちよ、いらっしゃい」

 有無を言わせず、サクラの手をひく。
 
 いのに導かれるまま、桜のトンネルを抜けて小さな丘を登ってゆく。

 暗いはずのそこに、灯火が揺らいでいた。

 ヒナタが1つ2つと火を点しては、無造作に並べている。

 2人が近付いてきたのに気付いて、にこりと微笑んで迎えた。

「サクラちゃん、お疲れさま」

「どういうこと?」

 ちらりと前を行くいのを睨む。

 だがサクラの視線に悪びれるでもなく、あっけらかんとした声が返ってきた。

「お・花・見・よ

「こんな時に?」

「こんな時だから!」

 びしりと天を指し、いのは言う。

「レクリエーションよ、レクリエーション」

「レクリエーションって……」

 呆れ気味に呟き、サクラは頭の中で辞書をめくる。

「ここんトコ、アタシたちって班なんてあってないような任務ばっかりじゃない?」

 10班はシカマルは中忍としての任務が増え、いのとチョウジも別の任務に借り出されるようになっている。

 8班もシノが昇格し、似たようなものだった。

 そしてサクラには、今、スリーマンセルの仲間がいない。

「せめて同期のくのいち同士、旧交を暖めておこうって趣向なのっ」
 
 さ、座って座ってと肩を押して無理やり座らせたサクラに、いのは杯を渡してくる。

 ヒナタが用意していた徳利を傾け、とろりとした白い液体を満たした。

「これ、甘酒?」

「気分よ、気分〜」

 いのは自分も注いでもらい、ヒナタへ注ぎ返す。

 他にも重箱いっぱいに、自分たちの好きな料理やら甘味やらが用意してあった。

「さ、カンパ〜イ

 高々と杯を掲げるいのに合わせ、サクラとヒナタも軽く杯を掲げる。

 サクラの師であるツナデ、そしてヒナタを担当する上忍師の夕日紅は忍としては勿論、酒豪・酒好きとしても名高い。

───こんなコトで師匠に似てもなあ……

 気持ちよく杯を傾ける2人と自身に、苦笑を漏らした。

「なによ、サクラ」

「なんでもない」

 いのはなにかを察したのか、杯越しに睨んでくる。

 誤魔化そうとしているのがバレバレなのを承知で、重箱を突いた。

「おいしい」

 だしの染みた煮野菜の味がじわりとひろがり、空腹だったことを思い出す。

 箸の行方を不安そうにうかがっていたヒナタがふわりと呟く。
 
 
write by kaeruco。
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