You'll never walk alone
□Cherry blossoms
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「よかった」
雲海のように広がる満開の桜を見下ろしながら、サクラはまだ下忍になる前の出来事を思い出していた。
初夏の頃、アカデミーの前庭を掃き清めていた時だっただろうか。
桜の木は花が終わり、青葉を繁らせた枝を一杯に伸ばしていた。
根元には赤黒い実が一杯に落ちていて、その1つ1つを拾いながら聞いたのだ。
───これ、植えたら、芽が出るかなあ
───ダメよ、桜は
その言葉が、自身を否定されたように響いて、悲しかった。
自分は芽が出ない───忍になれない。
そんなふうに言われた気がした。
せめて、世話が難しいから無理だといってくれればいいのにと。
そう、心の内で呟いてみる。
でも、いのが話してくれたのは、そういう内容ではなかった。
───この桜はね、実に種ができないのよ
最初の1本の枝を何度も何度も接木して増やしているけれど、決して次代への種は育まないのだという。
それは、鮮烈に咲いては散ることを繰り返すこの花らしい宿命のように感じている。
まるで、忍者という生き方にも通じているようにも思う。
そんな感傷を振り切るように見上げた空に、薄く月虹をまとった月が高く昇っていた。
「いの、ヒナタ」
空へ顔を向けたまま、サクラは呼ぶ。
「いい、レクリエーションになったわ」
その言葉が示すのは『気晴らし・休養・娯楽など心身の疲労回復活動』ということ。
今、サクラに一番必要な、求めていたことだったのかもしれない。
「でしょ?」
いのは顔を笑み崩し、ヒナタは安堵したような微笑を浮かべた。
「よかった」
2人に、心配をかけていたのかもしれない。
色々と気負い過ぎていた自覚はある。
けれど、それほどに自分を追い詰めなければ、たどり着けない場所を目指しているのだ。
「大丈夫よ」
だから、諦めることはできない。
今度は、決して、オマケではいられない。
もう自分は、1人の忍として立ってしまったのだから。
サクラは涼やかに笑ってみせる。
「……もうすぐだもの」
そして、懐かしい仲間たちと再会するのは。
【了】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2004/10/23
UP DATE:2005/07/06(PC)
2009/02/13(mobile)
【Cherry blossoms】 桜の花
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