You'll never walk alone
□彼女の価値
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オレ、イタズラ坊主で有名だったから、きっと覚えてるぞー。
「あ、でも、3代目だと余計なことまで話しちまうかな……えーっと、」
先生は決まり悪げにそんな心配を始める。
もうサクラは笑いが止まらなくなってしまっていた。
「やっと、笑ったな」
「あ……」
「なあ、サクラ」
呼び方が、苗字から名前に──春野からサクラに変わっている。
先生の声はすごく真剣なのに、表情はどこか楽しそうだった。
「オレが先生じゃダメかな?」
そりゃあ計算力じゃ、お前に敵わないんだが。
「まあ、他の先生たちを戸惑わせないようにはしてやれる……とは、思うんだ」
「せんせいが、おしえてくれるの?」
「うん。まあ、普通の人の振り……だけな」
「ふつうの?」
「サクラみたいに、問題を見て、すぐに答えが分からない人たちの振りだよ」
先生はすごく淋しそうに言う。
「みんな、大きな桁だったり、いくつも記号が入ってると、計算式を崩して計算したり、計算機を使ってるだろう?」
「うん」
「でもサクラには、1+1も、そういう式も、そんなに違わないだろ」
ちょっと羨ましいけどな。
先生はそう言って頬を跨いだ傷を掻く。
「それはスゴイことだけど、忍者になるなら普通の人の振りもできないとな」
「……はい」
お父さんみたいに、ただうちのサクラはスゴイんだって言うのとも違う。
自分は他の人と違うって、ちゃんと言ってくれた人は初めてだった。
この先生こそ、ひょっとしたらものすごい忍者なんじゃないだろうか、なんて思ってしまう。
「ねえ、せんせい」
「なんだ?」
「さっき、きいたの、どーして、18年前の5月26日のようびだったの?」
こんなたわいのない質問に、照れながらちゃんと先生の顔で答えてくれると、そんな考えは間違いのような気もしてくるけれど。
【了】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2005/08/08
UP DATE:2005/08/08(PC)
2009/11/05(mobile)
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