You'll never walk alone
□Petit Etoile
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そしてエトワールへの第一歩なのだから。
「だが、初級クラスへ上がれるのは全ての見習クラスから最大で9人まで。実力がないとみなされれば、誰も合格はできない」
しかし、続く言葉にいっせいに静まり返る。
そんな子供たちの表情を見渡してから、イルカは声を優しくして語りかけた。
「まあ、このクラスにはちゃんと初級クラスの実力を持った者がいると、オレは思ってる」
明日のテストでちゃんと実力を発揮できさえすれば、大丈夫だ。
「なので、今日はしっかり休んで、明日にそなえろよっ!」
「「「はいっ!」」」
「よし、本日はこれまでっ!」
威勢良く言って、イルカと教え子たちは優雅なレヴァランス──お辞儀を交わした。
レッスンが終わったのは、もう夜も遅い時間であった。
無理もない。
学校が終わってから、2時間のレッスンなのだから。
子供たちの多くは親が迎えに来ている。
もしくは、アカデミーの合宿所へ集団で帰っていく。
ヒナタのように、家に雇われた運転手などが迎えに来ている者も少なくない。
何しろ名門のバレエ団なのだ。
バレリーナ志願の子供はもちろん、子女の健全な育成の為のお稽古事として通わせている親も多い。
ヒナタもそんな1人だった。
「お疲れ様でした、ヒナタお嬢様」
「ありがとう。ネジ兄さんは?」
「ネジさんはご用事で寄られる所があるそうで、迎えはいらないとお聞きしております」
「そう……」
黒塗りの車の後部座席に乗り込み、ヒナタは息を吐く。
従兄弟のネジは1年前に初級クラスへ上がっていった。
レッスン時間が合わなくなるのは仕方がない。
けれど、いつからだっただろう。
子供の頃は常に一緒に通っていたネジが、自分と行動を共にしなくなったのは。
この車の窓から見る光景を、うらやましく思うようになったのは。
走り出す車窓の外には親に手を引かれ帰る少女や、イルカに率いられ合宿所へと歩いていく少年たち。
その最後尾を行く、金色の髪の見事さにいつも目を奪われるのは何故だろう。
───ナルトくん……
心の底でこっそりと、ヒナタはその名を呼んでいた。
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2004/11/06
UP DATE:2004/11/06(PC)
2009/11/08(mobile)