拍手倉庫

□チョコレイト・ディスコ
5ページ/6ページ


スクールデイズ 3
チョコレイト・ディスコ
 
3:ビタースウィート・シンフォニー


 そして、バレンタインデー当日。
大学構内で帯人と共に、倫の荷物持ち兼護衛をさせられているカカシは不機嫌の極みにいた。

 社交的な倫は仲の良い女友達や日頃お世話になっている先輩たちへ友チョコや義理チョコを交換、もしくは配って回るのに、渡すチョコと貰ったチョコをカカシと帯人に運ばせる。
学内でも有名なカカシと帯人という男子学生2人を引き連れてチョコレートを配り歩く倫を鼻持ちならないと陰口を叩く者は少なからずいたけれど、この行動が見ず知らずの女性からチョコを渡されたくないカカシの牽制を兼ねているのだと彼らの友人知人は皆知っているし、彼女自身も多少の誹りは覚悟しての行動だ。

 なので勇気を振り絞ってアタックしてくる女子学生はともかく、妙な勘違いを起こしてカカシの気持ちも慮らず高飛車に迫って来る女性への対処は3人ともに辛辣になる。
カカシはひたすら無視して興味を示さず、帯人は宥める振りして想い人がいる事を匂わせ、倫は果敢な女性のカカシ好みではない言動をにこやかにしかし容赦なくあげつらう。

 それでも引かない強引な女子学生数人に囲まれたせいでカカシの機嫌は目下急落中で、普段はストッパー役の帯人も苛つき始めている。
そこへ、カカシの気を惹きたいばかりに倫へ攻撃的な言葉を向けた途端、2人は静かに爆発した。

「……ね、今、なんて言った?」

「お前らさ、カカシに相手されないからって、なに倫に当たってんの?」

「うーん、そんなあたしよりも気にして貰えないって時点で、カカシにとってあなたがどういう存在なのか理解できないのもどうかと思うよ?」

 とても辛辣だが、倫はまだ平静を保っている。
冴え冴えとした視線を女性たちに向ける幼馴染み2人の袖を掴み、手は出させないようにしっかりと御している辺り、さすがだ。

「ほら、帯人もカカシもそんな殺気立たないの。あたしたちにはなんもメリットないでしょ」

「……そーうなんだけどねーえ……」

 ため息1つで冷静さを取り戻したカカシが呆れていますとオーバーなジェスチャーで示す傍ら、帯人はずんずん剣呑さを増していく。

 何しろ、彼らの行く手を阻む女性たちは倫へ罵詈雑言を吐き続けているし、その理由がカカシとの仲を勘ぐってのことだ。
帯人にしてみれば多重に不愉快になるのは当然。

 いっその事、面倒しか呼ばないカカシを生贄にして、自分と倫はこの場を逃走してしまおうかと考えても仕方あるまい。
と言うか、今すぐに実行すべきだと思い至ってしまった。

「……カカシィ、この始末はお前自身でつけろ。もうオレは知らん。これ以上、倫とオレをお前の爛れた交友関係に巻き込むんじゃねえっ!」

 そう宣言する勢いのまま倫の手を取って駆け出した帯人の脳内では、往年の名作映画のラストシーンで結婚式場から花嫁を連れ出す場面とシンクロしてメインテーマでも流れていそうだ───けれど、その場面は若気の至りで飛び出した2人の先の見えない未来への不安を予感させる、手放しのハッピーエンドではないのだが。

「……はっ! ま、待てっ、帯人っ……」

 状況を察したカカシの切羽詰まったような声と、虚を突かれた女性たちの戸惑った空気を置き去りに帯人は倫の手を引いて走る。
こうなったら目指すは大学の正門脇のバス停だ。

 上がりまくったテンションのまま、大学構内を駆け抜ける帯人に半ば引きずられ気味に並走していた倫が息を切らして問う。

「……ちょ、ちょっと帯人! どこまで、行くのっ!」

 因縁つけて絡んで来るカカシ目当ての鬱陶しい女性たちの包囲網から抜け出す為に帯人についてきたものの、倫はまだやることがあるし別にカカシも彼の女性関係にも興味はないのだ。
さっきのようにとばっちりさえなければ、勝手に泥沼化しようがハーレム形成しようが知った事ではない。

 しかし、カカシと一緒に置いてきてしまったバッグは回収しなくてはいけない。
あちらには、これから配る予定だったチョコレートが入っている。
帯人が持たされていた大きなトートバッグは倫が貰った友チョコが詰まっているだけだ。

 少しだけ怒りを乗せた声音で倫は帯人へ告げる。

「あのね、帯人。カカシに持たせてたバッグに2人の分も入れてあったんだよ」

 
write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ