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□チョコレイト・ディスコ
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「………………ごめんっ! すぐ、戻ろう」

 2人の分、とはバレンタインのチョコレートだと思い至った帯人はすぐさま踵を返す。
例え義理にして友チョコの既製品だとしても、彼に取っては倫から貰えるという事が何よりも大事なのだ。

「……その必要はなーいよ、バカ帯人」

 2人のすぐ後ろに、多少だが息を弾ませたカカシが立っていた。
勿論、倫に持たされていたバッグも下げたままで。
どうやらウザい女生徒を無事に振り切って、帯人と倫に追い付いてきたらしい。

「ほら、倫。さっさと残り配っちゃって。この後、教授んトコも行くんデショ?」

「あ、うん。ありがと、カカシ」

 素っ気なく、さっさと歩き出すカカシと並ぶ倫の手を掴んでいる帯人も釈然としないまま引きずられていく。
たどり着いた大学部のカフェテリアで待ち受けていたのは、カカシにとっての天敵と言える『海野イルカくん保護者会』の面々である。

 普段であればカカシと帯人は極力お近づきにはなりたくないのだが、今日この日だけは別。
実は先日、明日真へ託したイルカ宛のチョコレートの処遇が知らされるのだ。

 カフェテリアの一角を占拠していたのは明日真に紅、そして杏子の3人。

「来たわねー。はい、ハッピーバレンタイーン!」

 3人へ投げつけるように御手洗杏子が渡してきたのは、近所の和菓子屋がこの次期にだけ発売するチョコ大福。
個包装のまま、なんのラッピングもしていない辺りが彼女らしい。

「わー、甘栗甘のチョコ大福! これすっごく濃厚なチョコクリームが評判で期間限定だから入手困難なのに! ありがとー、杏子! これ、お返しだよー」

 倫がカカシに持たせていたバッグからこれまでよりちょっと大きめの可愛らしい包みを取り出し、杏子へと渡す。
中身は他と変わらないが、量だけは超絶な甘党の杏子仕様のようだ。

 続いて倫はシックなラッピングの小さな包みを2つ、明日真と紅へ差し出す。

「紅さん、明日真さん。これいつもお世話になってるお礼を兼ねて、ハッピーバレンタイン」

「おお、ありがとさん。来月は奮発すっから、期待しててくれていいぞ」

「ありがとう、倫。これ、お返しよ。カカシ、帯人もね」

 明日真は素直に受け取った上にホワイトデーのお返しを張込んでやろうと冗談めかし、紅は婉然と微笑み返して3つの小箱を3人の手へ落としていく。

「わあ! これって雑誌で特集組まれてた超有名ショコラティエの限定品じゃないですかっ! このご時世に1粒800円とかする超高級チョコレート様!」

「……うわー」

「……へーぇ……」

 倫のご丁寧な解説に、端で聞いていたカカシと帯人は青褪める。
既に杏子と紅には付け届けとしてチョコレートを渡しているが、こうして渡された分へはホワイトデーに改めてお返しをせねばならないと理解しているからだ。

 高価ではないがそれなりにレアな逸品を用意した杏子と、最高級かつプレミアムなアイテムを押しつけてきた紅。
きっと世間で言われている3倍返しならぬ10倍返しくらいは要求されかねない。
このバレンタインデーの熱狂が過ぎたら、すぐさま来月にむけて相応しい返礼品のリサーチと確保に奔走させられる事が確定したようなものだ。

 カカシと帯人の気持ちを察することの出来た明日真はやや同情の眼差しを向けるものの、自業自得な部分もある為さっさっと用件を告げる。

「……あー、カカシ。例の件についての報告だが」

「どうなった?」

 瞬間的に立ち直ったカカシに詰め寄られ、やっぱりコイツに同情なんか必要なかったな、と思い直した明日真は態とらしく人の悪い笑みを浮かべて紅へ視線を向けた。
心得ている紅も妖艶な微笑みを深くし、椅子に置いてあったバッグから1通の封書を取り出してカカシへ渡す。

「お前が用意したもんは保護者会で協議の末、さっきイルカへ渡してきたからな」

「これは、その証拠」

「ありがとうございましたっ!」

 手渡された封書を手に深々と頭を下げるカカシの姿を見た帯人は、卒業証書授与の見本みたいな姿勢だな、と思ったものである。

 
【続く】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2016/02/10〜2017/02/14
UP DATE:2017/02/14(mobile)

 

 
チョコレイト・ディスコ

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