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□バースデーがのしかかる
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バースデーがのしかかる
【カカシさん編】
IRON MAIDEN



 その朝、目覚めたイルカは、我が目を疑った。
 いや、目の前の光景を夢か幻術なら良かったのにと願った。
 思わず、幻術返しの印を組んでしまうほどに。

「おはようございます、イルカ先生」

 そう言ってにこやかに微笑むのは、はたけカカシ。
 木ノ葉隠れの里が誇るエリート上忍で、元暗部という肩書きとうちは一族のみに伝わる血継限界である写輪眼をも持つ男だ。
 本来なら、中忍でアカデミー教師でしかないイルカとは接点はない。
 けれど、イルカの教え子で最も心配の種であるうずまきナルトを下忍として認め、その上忍師となったのがカカシだ。
 その程度の縁だったが知り合って以来、教え子の情報交換という形で交流はしている人である。
 そのカカシが、何故か、イルカの部屋にいる。
 しかも、黒いミニのワンピースに白いフリルのエプロンドレスという出で立ち───通呼ぶところのメイド服で。
 勿論、いつものように口布で顔を下半分を覆い隠しているので、怪しさ倍増だ。
 ちなみに足は厚手のタイツをはいているのか、とにかく形の良さだけが見て取れる。
 そこまでしっかり観察しておいてなんだが、ツッコミどころが多すぎてイルカは何も言えない。
 ベッドの上に身体を起こし、毛布を掴んで目の前に居る不可思議な生き物を凝視するだけだ。
 そんなイルカを無視してメイド姿のカカシはテキパキと朝のお世話を始めている。
 蒸しタオルでイルカの顔を拭いてヒゲを当たり、ベッドサイドに朝食───それも完璧なブレックファーストを用意した。
 芳しいコーヒー、温かなミルク、焼きたてのブレッドに芳醇なバターの溶ける匂いが狭い部屋に漂っている。

「さあ、イルカ先生、召し上がれ〜」

 あ、それとも食べさせてあげましょうか。
 などと嬉しげに言われては、流石にイルカの食欲も減退する。

「いえ、あの、カカシさん……」

「なんですか? イルカ先生」

 涼しげに爽やかな声で返されても、メイド姿のカカシである。

「……なんで、あなた、そんな格好で、オレの部屋に?……」

 朝一番だというのに、イルカが精一杯の気力を振り絞って発したのはこれだけであった。
 
 これだからオレは中忍なんだな、と後ろ向きの思考に陥ったとしても、無理はない。

「そ・れ・は、今夜のお楽しみデース」

 ちょん、とイルカの鼻頭を軽くつつき、ウインクするカカシ。
 その姿と言われた言葉に、イルカは「戦慄」という言葉を生まれて初めて体感した気がする。

───夜まで居座るつもりかーーーっ!!!

 しかも、メイド姿で。
 一瞬、気を失いかけたイルカだったが、そんなことになったらどうなるか分からないと気付き、辛うじて踏みとどまった。
 傍らで、フォークに焼きたてのオムレツを掬い、はいイルカ先生あ〜んなどとやっているメイドのカカシから視線を反らして立ち上がる。

「カカシさん! オレ、仕事、行きますねっ」

 立ち上がり、ベストとカバンを探す。
 いつものアンダーは有事が起きたらなんてことを言い訳に、独り者の不精と気楽さから寝巻きも兼用していた。
 普段はきちんと着替えていくのだが、この場合は致し方ないとか、これも有事だとか、勝手な理由が脳裏に浮かんでいる。
 だが、夕べ放り出したところに、無い。
 
 
write by kaeruco。
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