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□春の日
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春の日
 
初節句



「イルカ先生に、お土産ですー」

 カカシが差し出したのは、可愛らしい色合いのあられだった。

「カカシさん、ありがとうございます」

 笑顔で受け取って、イルカはそう言えば今日でしたね、と1人ごちる。

 実はイルカは行事の知識はあるが、関心が薄い。

 バレンタインデーだって、カカシがチョコレートを渡して初めて気付くぐらいだ。

 仕事上のスケジュール管理はかなりしっかりできる人なのにと、逆に行事ごと(にかこつけてイルカといちゃいちゃするの)が好きなカカシは苦笑する。

「ええ。今日の依頼主のトコはお嬢さんの初節句だとかで盛大にやってました」

「へえ。ナルトは喜んだでしょう?」

 ナルトは、行事にも疎い。

 幼い頃にはそういったコトを一緒に祝ったりする大人が居なかったせいで。

 けれどその分、今は何かしらイベントの存在を知ると、それまで参加できなかった分を取り戻す勢いで楽しもうとする。

 いや実際、楽しいのだろう。
 
「ええ、もう。はしゃいでましたよ〜」

 ナルトと同じように幼い頃から家族のいない2人だからこそ、その気持ちは分かる。

「ま、はしゃぎすぎて折角のお飾りをだいなしにするトコでしたケドー」

「あはは。目に浮かぶようですねー」

 申し訳なさそうに、けれど朗らかにイルカは笑う。

 きっと、ナルトが人並みの行事に触れることを純粋に喜んでいるのだ。

「笑いごとじゃアリマセンって」

 大変だったんですよ、とカカシは続ける。

「サクラに依頼人の気ひかせて、オレとサスケでアイツひっ掴まえてたんですから〜」

「掴まえてって、アイツ何しでかそうとしたんです?」

「あー、雛段を昇ろうとしまして……」

「それは、やりかねませんね……」

 脳裏にはっきりとその光景が浮かんだらしく、イルカは力無く笑いをこぼした。

 ナルトには知らない──経験のない、常識がたくさんある。

 それを教えてやれなかった不甲斐なさも感じているようだった。

 そんなイルカを力づけるように、カカシはその顛末を話しだす。

「ま、アイツ押さえてる間に、初節句のお嬢さんが初登頂を果たしてたんですけどね」

 
 
【了】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2005/02/27
UP DATE:2005/03/07(PC)
   2009/02/26(mobile)
 
 
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