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□キャンディード
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キャンディード
 
少女たちの挽歌



 その日が近付くにつれて、忍者アカデミーくのいちクラスの少女たちはそわそわと落ち着きを無くしてゆく。

 そんな少女たちの様子に反比例して、うちはサスケのテンションは下降の一途を辿っていった。

 事の起こりは1ヶ月前のバレンタインデー。

 これまでの仕打ちのツケがまとまって返ってきたかのような、不運としか言いようがない。

 つまり何者かの策略とマヌケ過ぎるクラスメートのドジや人の良過ぎる担任によって、サスケは不本意ながらもチョコレートを受け取ってしまったのだ。

 来るべきホワイトデイに少女たちはそのお返しに胸をときめかせ、一方でサスケは胃の痛い日々を送っている。

 それでもどうにかしてあの担任に一矢報いたいサスケは、考えをめぐらせていた。

 そして3月14日を向かえる直前、サスケは気付いたのである。

「イルカ先生」

 その日の放課後、サスケは掃除の終わった教室の施錠を確認するイルカを呼び止めた。
 
「んー? サスケか。どうした?」

 ひと月前のことなど念頭にないだろう、暢気な返事にサスケは知らず口元が緩みそうになる。

 それを必死で押し止めて、できるだけいつもどおりの声と表情で、後ろ手に隠し持っていた包みを差し出した。

「受け取ってくれ」

「なんだ、オレにくれるのか? なんだ?」

 なんの警戒心もなく受け取ったのを確認してから、サスケはその正体を明かす。

「先月のお礼」

 そう。

 バレンタインにサスケにチョコレートを渡したのは、イルカだけだ。

 誰かに頼まれたものとはいえ、サスケは誰からか知らない。

 騙して飲ませたことが後ろめたかったのか、首謀者たちに堅く口止めされたこともあってイルカもサスケにばらしてはいなかった。

「いや、サスケっ! あああアレはだなっ!」

 慌てて否定し、返そうとするイルカに、サスケは平然と切り返す。

「オレはイルカ先生から貰ったから、お返しは当然、イルカ先生に渡すべきでしょう?」

 それだけ言って、サスケは駆け去っていく。

 もう1人、別の意味でお返しをしてやらねばならない人物がいるのだ。
 
 まだ春遠い2月の半ばに、びしょ濡れにしてくれたお返しはもう決まっている。

 少し楽しげに弾むように駆けて行く生徒の後ろ姿と、自分を出し抜いた成長の証を見つめて、イルカは苦笑するしかない。

 渡された大袋入りのキャンディーは色気も素っ気もないが、先月の計画に携わった少女たち全員へ行き渡るだけの数があった。

 
ショコラ 〜 男の戦い
……の後日談でした。

WRITE:2005/03/07
UP DATE:2005/03/20(PC)
   2009/03/08(mobile)
 
 
キャンディード

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