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□この夏の予定
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この夏の予定
 
大人の夏休み 2



 1日を浜で波と戯れ、日も暮れかけた頃に宿へ入った。

 観光シーズン目前での急な予約がとれたのは、まあ色々と世の中の仕組み──ぶっちゃけて言えばコネと金の力を、知っている2人だからだ。

 通されたのは宿で一番大きな離れで、女将と仲居が居間の障子を開け放つと一面に水平線が広がった。

 残照に赤く燃える空が徐々に闇に支配され、暗い海にぽつりぽつりと漁り火が灯る。

 女将に立ててもらった茶で一服したが、夕食まではまだ間がある。

「カカシさん、お風呂いきましょうか」

「はーい」

 ここは離れの湯も天然温泉を引いているらしい。
 おまけに露天で、眺望も抜群という話だった。
 カカシも用意されていた浴衣とタオルを手に立ち上がる。

 先を行くイルカは趣味が湯治というだけあって嬉しそうだ。

「そういや一緒にお風呂入るの初めてじゃないですかー」
 
 拗ねた声で問い掛けてみても、機嫌のいい鼻歌交じりで返すくらい。

「そうでしたっけ」

「そーうですよー。オレが誘っても、いっつも恥ずかしがって一緒に入ってくんないじゃないでーすかー」

「うちの風呂が狭いからですよ」

 風呂の戸に手をかけた格好で振り向き、イルカは意地の悪いことを言う。

「ああ。あと、アンタが不埒なことしようとしやがるせいでもありますねえ」

「そーんないけずなこと言ってるとー、襲っちゃいまーすよ〜」

 砕けた言葉尻だが、かなり真剣な声と表情をしていた。

 そんなカカシに、できるもんならどうぞ、とイルカの平坦な声が返る。

「呼び捨てもできないくせに」

 カカシの鼻先で風呂の戸はぴしりと閉まった。

 
【続く】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2005/07/15
UP DATE:2005/07/30(PC)
   2009/07/11(mobile)
 
 
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