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□クリスマスまで待って
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クリスマスまで待って
【1‐1】
クリスマス・カレンダー 昇降口の正面に飾られたクリスマス・カレンダーを毎朝めくるのは委員の大事な仕事であり、特権だ。
海野イルカはそう思っている。
クリスマス・カレンダーとは12月1日から25日までの日付がうずまき状やツリー状に並んだ特別な仕掛けカレンダーだ。
毎日めくっていくとクリスマスに関するお話やイラストが書かれていたり、お菓子やツリーのオーナメントが出てきたりする。
今飾られているのは流石に学校のものだから、お菓子が出てくる、というものではない。
けれど仕掛けカレンダーをめくって最初にその下を見るというのはとても楽しみなことだし、特別な役目だと思うのだ。
今朝、今年最初の当番になったイルカは人気のない中等部の校舎に飛び込むと、真っ先に昇降口の掲示板に向かう。
今年、中等部に飾られたクリスマス・カレンダーは25マスの正方形に日付がランダムに割り振られた大きなビンゴ・カードみたいなモノだった。
多分、全部めくれば1枚のイラストになるのだろう。
今日はどこかと見上げたイルカの目の前、中央に25日が見えた。
左下が1日で右上に2日、3日はその斜め下。
4日は1番上の左から2番目。
爪先立って手を伸ばすが、小柄なイルカにはあと少し届かない。
多分、ジャンプすれば届かなくもないが、ちゃんと4日の部分だけめくれるかどうかは別だ。
むしろうっかり余計なところまで破いて、カレンダーを台無しにしてしまう可能性がある。
しばらく、精一杯伸ばした指先のわずか上にあるめくり口をにらんでいたイルカだが、やっぱり踏み台を取りに行くのがベストだと考えついた。
手近な家庭科室の箱椅子を借りてくるのがいい。
そう思った、矢先。
「めくるの? コレ」
暢気そうな声と共に背後から伸びてきた白い手が、こともなげにカレンダーをめくっていた。
その下から出てきたのは、3つの星が輝く夜空。
「……あっ」
楽しみにしていた仕事を奪われた怒りだとか、届かなかったのを見られた羞恥だとか、突然手を貸してくれた戸惑いだとか。
瞬間的に幾つもの感情がないまぜになって混乱したイルカは何も言えず、ただ背後に立つ人を見上げる。
最初に目に映ったのは高等部の制服と3年生の襟章。
それから一際印象的な、サンタクロースみたいな灰白色の髪。
「じゃあね、イルカちゃん」
にこりと笑顔で告げ、その上級生は去る。
イルカは呆然と見送った後、小首を傾げて呟いた。
「……てゆうか、誰?」
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2009/12/03
UP DATE:2009/12/04(mobile)