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□クリスマスまで待って
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クリスマスまで待って

【2‐2】



 内扇帯人は焦っていた。
 同時に困惑し、恐怖しながら、憤慨もしていた。

 この複雑な胸中の要因はおしなべて1人の幼なじみ、畠カカシである。

 出来ることなら、とっくに幼なじみという関係を返上したい帯人であった。

 だが幼稚舎以来13年、それができないのはなぜだろう。

 そんな感慨にひたっているうちに、本日の授業は終了している。

 今朝の奇行については対カカシのエキスパートにして、海野イルカの兄貴分である猿飛明日磨へ報告済みだ。
 きっと今頃、何らかの対策が取られているはずである。

 多少は帯人にも厄介事は回ってくるかも知れない。
 けれど、あの人気者の後輩がカカシの被害者になってしまった場合の良心の呵責に比べれば易いものだ。

 ちょっとだけ、自分の存在価値を見失いそうになるが。

 だらだらとホームルームを受けていると案の定、携帯がメールを着信した。
 
『放課後、見張っててくれ』

 頼りになりすぎる先輩からの指示は、それだけ。
 主語が抜け落ちた命令だが、何を指しているかは分かりきっているだけに、文句も言えない。

 さて、とホームルームの終わった教室を見回すと、ちょうどカカシが出ていこうとしていた。
 慌てて追った帯人は校舎を出たところで気付き、早速メールで報告を送る。

 そして何気なさを装って尾行中の幼なじみへ声をかくた。

「カカシー、帰ろうぜ」

「や。用事あるから」

 オマエ、先帰れ。

 明らかにそんなニュアンスで、振り返りもせず校門とは違う方向へカカシは歩みを止めない。

───いつもならソッコー帰宅のオマエが、中等部になんの用だ

 と、心の奥だけで叫んだ帯人はできるだけフレンドリーにカカシを足止めに掛かる。
 つまり、親友っぽく、腕を組んで。

「なんだよ? 付き合うぜ」

 通りすがる女子のやたらキラキラした視線を向けられても、気にしない。
 例え明日、妙な噂が流れても長年の付き合いで何度もあったことだ。

 思い出したくない過去まで蘇ったのか、露骨に嫌な顔で足を止めたカカシをありがちなネタで更に追求する。
 
「中等部のコから呼び出し? 珍しいな。今まで全無視だったろ?」

 もしかして、マジ?

 声をひそめて尋ねれば、長いつき合いで初めてじゃないかという満面の笑みが返った。

「そ」

「……へ、へぇ〜」

 冬の寒さだけでない悪寒に耐え、興味本位という体を崩さずに帯人は率直な探りを入れる。

「で、どんなコ?」

「だから、イルカちゃんだって言ったろ。朝」

 確かに、イルカを気に入った風な事を言ってはいた。
 いたが、でもまさか、既に一緒に登下校なんて仲に進展しているなんて聞いていない。

 第一、明日磨のメールによれば、イルカのカカシに対する認識は紛うことなく不審者へのそれである。

「……なあ、カカシ」

「んー?」

「オマエ、イルカちゃんと仲いいの?」

「は?」

「いや、だから、一緒に帰るくらい……」

「なに言ってんの、帯人」

 もっとも過ぎる帯人の疑問に、カカシは胸を張って答える。

「仲良くなれるよう、これから後つけるんじゃない」

 ドーン、という衝撃波を伴う幼なじみのストーカー宣言。
 
 急なめまいに視界が暗くなった帯人が、カカシを見失ったとしても、誰も責めないだろう。

 多分。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2009/12/14
UP DATE:2009/12/14(mobile)
  
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