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□クリスマスまで待って
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クリスマスまで待って
【3‐2】 木ノ葉学園の年末を彩るクリスマス。
その始まりを告げる点灯式はツリーの大きさと美しさ、セレモニーの素朴かつロマンチックさで校外でも評判がいい。
中でも一番の名物がセレモニー後に配られるジンジャー・ブレッドだ。
クリスマスの定番、人型に焼かれたジンジャー・ブレッド───ジンジャーマンを貰いに、毎年生徒や近隣の子供だけでなく、噂を耳にした大勢の人が集まる。
数に限りがあるため、早くから来てセレモニーを待つ人も多い。
だが実はジンジャー・ブレッドは帰りに渡されるので、セレモニーの終わり間際に会場へ入って出口付近で待っていればいいのだ。
その事を知っている畠カカシは運営委員でありながら準備には一切関わらず、例年通りセレモニーが佳境へさしかかった辺りでようやく会場───学園の中庭へやってきた。
ちょうどツリーが点灯されたところらしく、歓声とクリスマス・ソングが聞こえる。
だが裏方である運営委員は自分たちが企画したセレモニーを見ることもなく、寒風の吹く中で立ち働いていた。
中庭から校門へ向かう道の脇にダンボールを運んでいる。
そろそろセレモニーも終わるから、恒例のジンジャー・ブレッドを配る準備だろう。
それにしても、とカカシは思う。
中等部の生徒たちが一列になって一抱えもあるダンボールを苦労しながら運んでいる様は、まるで。
───ありんこの行列、だぁねぇ
自身の想像があまりに的を射ていて、小さく吹き出してしまう。
特に髪の毛を高い位置でひっつめたように結い上げた小柄な子は、本当にありんこだ。
小さい体で、大きな荷物を運んでいる。
運び終われば、真っ先に次の荷物を取りにいく。
張り切って働く姿は微笑ましく、励まされるのか他の生徒たちの作業も捗ったようだ。
セレモニーを楽しんだ人々へジンジャー・ブレッドを配る為、小道の脇に積み上げたダンボールの前に女子や小柄な生徒が並ぶ。
男子生徒はダンボールの後ろで開いた箱を入れ替え、潰す体制だ。
やがて、込み合う前にと数人がフライング気味に会場を出てくる。
そんな人々に紛れ、カカシもジンジャー・ブレッドを受け取る列に並んだ。
タイミングを見計らい、さっきから気になって目で追っていたひっつめ髪の子へ手を差し出す。
「メリー・クリスマス」
ありきたりな言葉と、とびっきりの笑顔で渡されるジンジャー・ブレッド。
「メリー・クリスマス」
とっさに同じ言葉を返し、カカシは列を離れた。
配られる他のジンジャー・ブレッドと何ら変わるところのないただのジンジャーマン。
なぜだか自分の手にした物だけが特別に思えた。
誰かに呼ばれていたあの子の名前を思い返す。
「……イルカちゃん、か……」
* * * * *「……で?」
そこまで語り終えて満足げにコーラを飲み干すカカシへ、帯人は先を促した。
だが一向に話は再開されない。
「……もしかして、それだけ?」
「うん」
他に何が、と言わんばかりにカカシはうなずく。
倫と競うようにフライドポテトをもすもす食べながら。
「なあ、カカシ……」
できるだけ、内面の呆れがこもらないよう、帯人は声を出した。
「イルカちゃんと仲良くしたきゃ、委員会でろ」
「……え?」
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2009/12/19
UP DATE:2009/12/20(mobile)