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□クリスマスまで待って
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クリスマスまで待って
【4‐2】「おはようございます」
「おはよ、疾風」
不審者───畠カカシに遭遇した日以来、疾風は毎朝イルカを迎えにくる。
元々、家は近所だし、普段から一緒に登校もしていた。
けれど当番で早く家を出る時や、今日のように冬休み中は本当に申し訳なく思う。
「早朝や休日の人通りが少ない時こそ、不審者には絶好の好機です」
何度も迎えを断ろうとする度、疾風はいつになく強い口調でイルカを諭す。
「1人にならないことが、最大で最低限の自衛手段ですよ」
ボクとが嫌でしたら、必ず他の方と一緒に登下校すると約束してください。
とまで言われれば、お手上げだ。
嫌なのでなく、申し訳ないだけなのだから。
冬休み中であるクリスマス当日の25日、イルカが疾風と登校してきたのはそんな経緯があったからもあるが、単に2人とも委員の仕事でだ。
まずクリスマス・カレンダーの最後の1枚をめくり、掃除用具とゴミ袋を手に中庭へ向かう。
夕べのクリスマス・イブに行われたイベントの片付けと、午前中のイベントの準備をするのだ。
まばらに生徒が集まりだし、それぞれで掃除を始める。
イルカと疾風もクリスマス・ツリーの周囲を受け持った。
灯りが消え、朝日を反射するオーナメントに飾られたツリーは、夜のライトアップされたきらびやかさとまた別の、素朴な美しさがある。
遅れてやってくる委員と挨拶のようにイブやプレゼントの話をしながら手を動かすイルカを、ふいに疾風が呼んだ。
「なに、疾風?」
けれど、振り返った先で疾風が見ていたのは、イルカではない。
大きなクリスマス・ツリーの片隅に下げられた手のひら大のぬいぐるみだ。
水色をした手触りもよさそうな小さなイルカのぬいぐるみ。
青く光沢のあるリボンでクリスマス・カードも結びつけてある。
それを見て、疾風は思わず呟いたのだ。
イルカを呼んだわけではない。
嫌いではないけれど、妙な名前をつけられたなぁと苦く笑いながら、イルカは友人の肩をつつく。
「疾風、どうかした?」
「いえ、あの……」
珍しく、歯切れの悪い返事にイルカは首を傾げた。
きっと木ノ葉学園に伝わるクリスマス・ツリーの伝説を知らないイルカになんと言うべきか、疾風はとっさには判断つきかねていた。
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2009/12/25
UP DATE:2009/12/26(mobile)