カカイル2

□なよたけ
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なよたけ
 〜 MOON CHILD 〜
 


───あきた、
 なよたけのかくやひめとつけつ
 竹取物語(作者未詳・9世紀末〜10世紀初)───



 カカシは夢を見ていた。
 夢だと判るのは、目の前にある光景が子供の頃から繰り返し繰り返し何度となく見てきたものだから。

 静かな月夜、竹林に1人。
 目の前には、すくすくと伸びる1本の若竹。
 まだ弱竹(なよたけ)と言える細さであるのに、見る間に中天へかかる満月にまで届くほどに伸びていく。
 その不思議な若竹を、何を考えてか夢の中のカカシは徐に登り出す。

 最初は、単なる好奇心だと思っていた。
 ただの夢でしかないのだとしても、もしかしたら月まで登って行けそうだからという。

 次に、逃げなのではないかと考えた。
 現実で辛い事が続いていたから、ここではないどこか自分の知らない場所へ行きたいのでは、と。

 今は、不安と恐怖を覚える。
 目覚めている時はできることならこの先には進みたくないと思っているのに、夢では躊躇なく登り続ける。
 これは逃れられない悪夢なのではないのか、と。

 実際に地表から月までどれほどの距離があるのかは知らないけれど、瞬く間に細くしなやかな若竹を足場にカカシは月へと迫る。
 なぜか若竹は月の表面にぽっかりと空いた暗く深い穴の中へと伸びていた。
 カカシも若竹を辿って月に空いた穴の奥へと進んで行く。

 月の穴の中は暗い。
 それなのに、内部の様子がカカシには分かった。
 真円に削られた岩肌は滑らかで、水が穿つように自然に出来たかにも人の手で丁寧に掘られたようにも思える。

 奥へ、奥へとゆっくり下っていくにつれ、行く手に密やかな人の気配が感じられる。
 何かに引き摺られる衣擦れの音。
 ゆったりと素足で歩き回る人の足音。
 そんな音が、何者かの息遣いが、していた。

 穴の底には、誰かがいる。
 何者がそこにいるのか、何度も夢を見ているカカシは知っていた。
 しかし、夢の中のカカシは興味にかられて足を早める。

 いや、何も知らない子供の頃なら、その人に会いたくて堪らなかったのだ。


───やあ


 若竹に沿って登り、駆け降りた穴の底で、朗らかな声がカカシを迎える。
 闇と同化しそうなくらい伸びて足元に這う長く長い黒髪の間から、親しげに伸ばされる腕は男の物。
 着古されてボロボロの着物から踏み出される素足も。

 いつも、その人を見上げてカカシは自分が子供に戻っている事に気づく。
 きっと、初めてこの夢を見た頃の姿だ。
 そのせいで、もしかしたらと考えてしまう。
 この夢は、本当にあった過去の記憶なのでは、と。

 だって、小さなカカシを撫でる手の感触が懐かしい。
 昔は、夢の中でしか知らなかった。
 けれど今は、実際に知ってしまった。


───迎えに来てくれたのか?


 その声も。
 見上げた、柔らかな笑顔も。


 * * * * *

 
 
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